「題材があぶり絵のように浮かんでくる作品」ひかりのたび ルイベさんの映画レビュー(感想・評価)
題材があぶり絵のように浮かんでくる作品
澤田サンダー監督は、社会の中で誰もが内心思っていること、気付いていること、そういう題材を使って作品を作るのが好きなように思う。
そして、その題材をプロットのポイントとして使うわけではなく、プロット上のあちこちに、まるで魚の骨が喉に引っかかったような、そんな使い方をするところが面白い。
ちなみに、この作品のプロットポイントは、ある人物が秘密の告白をするところだろう。でも実は、この映画の登場人物はみんな秘密を持っている。秘密とは言えないまでも、伝えたい気持ちを持っているんだろうなという、そんな雰囲気を感じさせる人もいる。
そもそも、秘密を持っていない人間なんていない。秘密があるからこそ、人に伝えたくても伝えられない気持ちがあるからこそ、人間関係にどこか気持ち悪さを感じるし、事件も起こるし、ドラマチックなことも起こる。だからこそ、そんな登場人物たちで織り成すこの作品は、すごくリアリティを感じさせるし、いい意味での「気持ち悪さ」を感じさせてくれる。
この「気持ち悪さ」というのは、リアルな人間関係の気持ち悪さでもあるし、誰の考え方が正解なのかわからない気持ち悪さでもあるし、冒頭でも述べた、「題材」が魚の骨のように引っかかっている気持ち悪さでもる。
題材を追う映画ではない。ストーリー、会話、人物関係、役者の表情、それらを追っていくうち、観終わった後に「題材」が頭に残る、そんな映画です。ちなみにこの作品の題材は「土地」。観終わった後、自分の故郷の土地問題を考えさせられました。
「気持ち悪い」を連呼してしまいましたが、観終わった後に後味の悪さを感じる映画ではありません。それはきっと、志田彩良さん演じる主人公・奈々の未来に、「ひかり」を感じたからだと思います。社会問題を感じさせながらも、爽やかな気分にもさせてくれる、見事な映画だと思います。