劇場公開日 2018年4月14日

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「クルーガーの一人芝居を観ているかのよう」女は二度決断する つとみさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0クルーガーの一人芝居を観ているかのよう

2023年11月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

ドイツ映画というのは、そんなに観たわけではないけど、独特の暗い雰囲気がある重厚さが特徴だよね。リアリティ重視というのかな。そういうテーマの作品ばかり観ているというのもあるだろうけどね。

そんな雰囲気の中で、喜び、悲しみ、絶望、そして決断と、様々な感情の変化を演じきったダイアン・クルーガーの演技は圧巻だよね。
彼女はイングロリアスバスターズの辺りではそこそこ名前も売れてたしハリウッドでブレイクするかなと思っていたけど、そうはならなくて、少し残念に思うと同時に忘れかけていて久しぶりに見たのだけれど、元々持っていた陰りのある雰囲気が、本作の雰囲気と絶妙にマッチしていて、相乗効果が凄いよね。昆布と鰹節のダシみたいな。

そのクルーガーが演じた主人公について、彼女のマイナス面が感情移入の妨げになるというレビューを読んだ。気持ちはわかるけど、この映画が真に巧妙なところは、被害者家族が100パーセント善良ではないところにあると思うんだ。
映画の最後にも出るけれど、本作のモチーフになった事件のこととか、その根底にある移民問題とか、そこまで詳しいわけではないのであまり大きいことは言えないけれど、ここ数年でドイツが抱えている社会問題を絶妙なバランスで描き出してることにあると思うのね。
極端な話をすれば、主人公が絶対的に善良で可哀想だとせずに、場合によっては加害者側の気持ちも分かるよねという余裕を持たせている。今回はヒトラー崇拝者だから、彼らに肩入れする要素はないのだけれど、ドイツの国内問題に照らし合わせると深い闇が浮かび上がるんだな。

とは言っても三部構成からなる本作の第二部がドイツの社会問題パートで、最終の第三部では、もっと主人公カティヤと家族に焦点を絞ったヒューマンサスペンスに様変わりする。
様変わりといってもストーリーは続いているので表面的に変化はなくテーマだけがヌルリと変わる。般若の面みたいな。
第三部のタイトルが「海」で、何で海?と思ったけれど、監督で脚本のファティ・アキンは、ここでも上手いこと仕掛けてきたよね。もちろん全体的にも巧妙に仕組まれているのだけれど、ラストシーンで全てが収束していく感じが特に素晴らしいよね。物語は終わったが問題は逆に拡散する的な小憎らしさもあるしね。

まとめとしては、社会派ドラマの要素を内包したヒューマンサスペンスで、見応え十分な秀作だと思う。ちょっと作品の背景を調べたりして「帰って来たヒトラー」あたりの作品と一緒に観たらより面白いかもしれない。

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つとみ