「悲しみと憎悪、法と社会の矛盾と不条理を断ち切る決断」女は二度決断する 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
悲しみと憎悪、法と社会の矛盾と不条理を断ち切る決断
2017年度のカンヌ国際映画祭女優賞受賞作品。
ハリウッド~ヨーロッパで幅広く活躍するも、どうもここ最近めぼしい作品が無かったダイアン・クルーガーにとって、母国ドイツの作品で母国語で、栄えある賞と代表作として挙げるのも納得の熱演。
作品的にも見応えあり、今回見たカンヌ関連の3作品の中では一番良かった。
ドイツで実際に起きた爆弾テロ事件がベース。
テロによって夫と息子を殺されたカティヤ。
その行く末が、3章に分けて描かれる。
まず、事件直後。
喪失と悲しみをじっくり描写。
同情されて当然なのに、夫の両親から責められる。
夫は麻薬所持の前科あり。誰かしら敵が居て、何かしらの事件に関与の疑いが。
さらに、自宅から麻薬が見つかり、カティヤも日常的に服用していたのではと追及される。
そんな時、犯人逮捕の報せが…。
犯人は、ネオナチ夫婦。
裁判が始まる。
非道なテロによって愛する家族を奪われたのだから、こちらに有利な裁判の筈。が、
医師による遺体の損傷の生々しい説明、あちらの憎たらしい弁護士の狡猾戦術でカティヤ自身を貶め、信憑性が疑われるなど、苦境は続く。
カティヤの目撃証言、被告人の父によるこちら側に有利な証言、旧知の弁護士の奮闘などで、裁判は拮抗。
元々裁判物は好物なので、2章目は引き込まれた。
下された判決は…。
法や社会の矛盾・不条理をも訴える。
そして、3章目。
ズバリ言ってしまおう。判決は、まさかの無罪。
愛する家族を奪った憎き犯人たちは、罪に問われる事無く、また世に放たれた。
この抑えきれない悲しみと憎悪…。
これらは何処に、何にぶつければいいのか…?
こちらが妥協して、永遠に息の詰まる我慢をしなければならないのか…?
カティヤが取った行動は、誰しも予想は出来る。
法で裁けないのなら…。
カティヤは二度、苦渋の究極の決断に迫られる。
まず、一度目の決断。
これは、正しい決断だ。
復讐したい気持ちは充分分かる。でも、もしそれを犯してしまったら…。カティヤはもう一つ、別の苦しみを背負う事になる。
最後の2度目の決断は、見る者に考えを委ねさせられる。
あれ以外に決断の余地は無かったのか…?
また同じような凶行を犯すかもしれない犯人たちへのカティヤ自身の裁き、悲しみと憎悪、それら負の連鎖を断ち切る為とは言え…。
これはほんの一つの一例に過ぎない。
非道なテロ行為、法と社会の矛盾や不条理が続く限り、また…。
悲しみと憎悪の淵に立たされた時、アナタなら、どう決断するか…?