「愛と理解と訴えの鼓動」BPM ビート・パー・ミニット 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
愛と理解と訴えの鼓動
2017年度のカンヌ国際映画祭グランプリ受賞作品。
パルムドールの『ザ・スクエア』は独創的ではあるがシュール過ぎて自分には合わなかったが、訴えるメッセージ性などはこちらの方が良かったと思う。
1990年代初頭のパリ。
実在する同性愛や反HIVの活動団体“ACT UP”。
社会の差別や偏見と闘った若者たち。
今も同性愛やHIVへの差別・偏見は根強く残っているが、だいぶ理解は深まっている。
しかし、90年代初頭はまだまだそうではなかった。
同性愛同士で性交すればHIVに感染、同性愛=HIV、HIV陽性者の近くに居るだけで感染するという誤解すらあった。
何もHIVは空気感染や肌に触れたって感染はしないし、男女同士で予防ナシに性交して感染する時は感染するというのに…。
社会の理解や医学の研究が進んでなかったとは言え、一体何故こんな誤解が植え付けられたのか。
同性愛やHIVへの差別・偏見は、社会の問題を殊更浮き彫りにする。
同性愛に自由を。
HIVの正しき理解と予防を。
“ACT UP”の活動内容は社会への訴え。
時には過激な行動も辞さない。
作り物の血を投げ付ける。デモは頻繁に。治療薬の提供を渋る製薬会社に乗り込む。…
団体内でも常に白熱した議論が繰り広げられる。
法を犯した行動もあったかもしれない。
が、何かアクションを起こさないと、社会は関心すら持たない。
意識改革へのきっかけにもならない。
監督のロバン・カンピヨは実際にACT UPの一員だった事もあり、実体験を基に、当時の熱気や若者たちの姿をリアルに臨場感たっぷりに描写。
その演出力やキャストの熱演はとても劇映画とは思えず、まるでドキュメンタリーを見ているようだ。
テーマやメッセージは社会派だが、主軸は繊細な愛の物語。
新加入の青年と、カリスマ性溢れる団体の中心人物。
二人の出会い。
惹かれ合う。
ラブシーンは激しく、生々しくもある。
が、次第にHIVの症状が悪化していき…。
HIVによって愛する大切な人を失う悲しみの物語でもある。
生きたくても、生きられない。
だから、万一手遅れになる前に、そうならない為にも、知ってほしい。
理解を。
自由を。
愛を。
切実な訴えを。