劇場公開日 2018年9月28日

「殺陣は見応えあるが話が冗長」散り椿 REXさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0殺陣は見応えあるが話が冗長

2018年11月12日
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確かに「絵」はきれいだ。土や花の香りが漂う凛とした空気、人の呼吸音さえ吸収してしまいそうな雪景色、竹林の静謐さなどうっとりするほど美しい。
その自然の大らかさや美しさと対比するように繰り広げられる武士の世界は、矮小で意地汚い。

鬼平犯科帳のようなナレーションも、古くささを感じるが悪くはない。

がしかし、いかんせん話が時代劇でありきたりの内容であるにも関わらず、非常に展開が遅かった。
監督の我が出てしまったのか、映像の美しさを見せたいがためのカットが多いのだ。
また、新兵衛と妻との回顧場面も然り。
「新兵衛、なぜ戻ってきたのだ」という采女の台詞、何度聞いただろう。

そして、二人の主役陣。岡田准一と西島秀俊。
岡田にはどうしても凄みが足りないというか、三船敏郎のような滲み出る野性味や、憤りを隠した哀愁のようなものが感じられない。勿論日本映画界の重鎮と比べてしまうのは申し訳ないのだが、本人がそこを目指そう目指そうとしている気がしてこそばゆく、背伸びしてるようにしか見えない。
そして西島秀俊。他の作品では独特の存在感が際だつのだが、この作品ではどうも能面のようなひきつり顔としか映らず、仲間の死も自分の業も抱えた苦しみというものが、佇まいから感じられないのである。

鬼気迫る殺陣は目をみはるものがあり、クライマックスの型にはまらない血生臭ささはえげつなくて好み。特に采女がずんずん歩いて、気圧された相手を突き刺すところがいい。
新撰組・永倉新八の回顧録で「いざ斬り合いになると、相手がこうきたらこう、と考える余裕はなく、ただがむしゃらに体が動くのみ」という文を思い出す。
殺陣を楽しむという目的だけで、この作品を観る価値はあるかと思う。

あともう一つ、名カメラマンと云われる木村さんの作品を楽しみに劇場にきたのだが、ピンの合わせ方がそれほど巧いだろうかと首を傾げてしまった。
観たスクリーンでの再現性が悪かったのだろうか…。評判の高い「剣岳 点の記」を見てみたいと思う。

REX