「映像は天晴れ!ストーリーテリングは喝!」散り椿 ao-kさんの映画レビュー(感想・評価)
映像は天晴れ!ストーリーテリングは喝!
カメラマン出身の監督・木村大作の撮る映像の美しさは流石としか言いようがない。背景となる山々、剣の稽古中に舞い降る雪、そして散り椿が咲く庭、それらが全てがこの物語をより美しいものに引き立てている。明らかに三船敏郎を意識したであろう岡田准一の殺陣も見事であり、それを引きの画で撮ることで、身体全体の動きの美しさも際立たせたのは正に天晴れ!
だが、「剣岳」でも感じたが、どうも木村大作はストーリーテリングが今ひとつ振るわない。登場人物の置かれた立場やその行動をとる動機がさらりと語られるのみであり、観客の琴線に触れるほど迫ってこないのだ。その美しい映像だけで全てを感じ取れと言っているのかもしれないが、物語は妻への愛と藩への真の忠誠という二段構えであるがゆえに、物語と登場人物の関係性がもっと整理されて然るべきである。何よりも主人公・新兵衛の妻・篠への想いの強さがあまり描かれないまま、物語が進んでいくのは惜しく思えて仕方がない。
しかしながら、近年あまり作られなくなっている時代劇をこれだけの豪華な顔ぶれで、しかもこれだけ硬派なものに仕上げてくれたことは有難い。斬って吹き出す血しぶきや、卑劣な手を使う敵役のあざとさなど、なかなか乙な演出も物語を盛り上げてくれる。映像だけで物語の全てを語るということは簡単なことではないが、これだけ美しい映像と粋な演出ができるのであれば、もう少しシンプルな物語を原作として選んだ方がより監督のセンスが光ったであろう。
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