「秘めた想いのぶつかり合い、その果てに…」散り椿 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
秘めた想いのぶつかり合い、その果てに…
原作は既読です。
原作からの換骨奪胎が程良い感じでした。藩の隠密組織が登場したり、若殿襲撃の場面がもっと大掛かりであったりと、エンターテインメント性が強い作風の原作でしたが、映画版はそれらを思い切って削ぎ落とし、登場人物も極力減らして、人間ドラマに重点を置いているように感じました。
時代劇としては珍しく、全てのシーンをロケーション撮影していて、日本の美しい風景や建造物の数々が登場し、画面に彩りを与えると共に、物語に奥ゆかしさを加味しているような印象を受けました。こんな景色がまだ残っていたのかと目を見張る想いでした。それを捉える木村大作のキャメラ・アングルの巧みさ…。眼差しの素晴らしさに感極まりました。
ひたすら、妻への深い愛故に行動する新兵衛(岡田准一)の姿が涙を誘いました。かつて四天王と称された仲間たちとの深い絆にも胸が熱くなりました。青春時代を共にして、未来への希望が光り輝いていた美しき日々―。やがて酸いも甘いも知った大人になり、それぞれの道を歩み始めていた彼らを非情な運命の流転が否応無しに包み込んでいきました。
石田老中(奥田瑛二)の権謀術数が彼らをとことん追い詰めていき、過去の斬殺事件も絡み合いながら、壮絶な終局へとひた走っていきました。老獪でふてぶてしい石田老中に怒りが燃えたぎりました。新兵衛の妻・篠(麻生久美子)の死も、間接的には彼のパワーゲームのせいだと言えるかもしれません。
新兵衛が仇討ちへ向かうクライマックスでは、激しく降る雨の中で繰り広げられた殺陣の美しさに見惚れると共に、刀を振るう彼の胸の内を想像すると、涙が溢れました。
岡田准一も参加した殺陣演出が息を呑む迫力でした。流れるような素早い剣戟…。華麗な動きに魅了されました。殺陣に籠められた気迫がスクリーンから伝わって来るようでした。
「椿三十郎」で時代劇に変革を齎した鮮血の美学がオマージュされていました。迸る夥しい鮮血が、顔や着物を濡らしていく…。静謐な物語に血しぶきが加わることで、人生が持つ壮絶さや荒々しさを表現しているように感じました。新兵衛の鬼気迫る殺陣と共に、秀逸な演出だなと思いました。
※鑑賞記録
2019/09/22:レンタルDVD
2022/04/03:Amazon Prime Video
※修正(2022/02/06)