ほどけてゆく人妻のレビュー・感想・評価
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ドイツあるある
2007/8年の作品。ベルリン映画祭にも出たようだ。
冒頭の場面の男性達の服装からバイエルンかオーストリアかと思ったが、舞台はドイツ北部、車ですぐにオランダに行けるカトリックの小さな街。
地元に生まれ育ち、皆が互いをよく知っていて、そんな環境の中で高校か大学生の頃に知りあった若い二人。夫のベルントはその小さな街の新市長。引っ越したばかりの家は二人には十分広くて美しく窓も大きく自然に囲まれている。妻のミリアムは一日2時間ほど町の図書館で働いていて小学生相手のコンピュータ講座も受け持っている。未知の大人の世界を知りたい子ども達が勝手にアダルト系サイトを検索できてしまう様子に時代を感じる。ミリアムはその中の中心いたずら小僧に「ママと見るのよ」と子どもを対象とした「セックスとはなんでしょう?」ビデオ(勿論、図書館にあるもの。男の子はDVDでなくて残念がる)を貸す。こういうところが、ミリアムがあまりに真っ直ぐで分かっていないところ。まずは同僚(全員、女性)に相談すればよかったのに。
あなたの奥さん、息子にこんな物を貸したのよ、と夫のベルントは行きつけのクリーニング屋さんの女性に言われて困惑する(市長自ら自分のシャツをピックアップするためにクリーニング屋に行くのいいねえ)。市長の妻がこんなことをしては困るのだ、と彼は妻・ミリアムに言う。その夫婦間のやりとり場面で彼女はビデオを映してこれのどこが悪いの?と言う。その画面に映し出される可愛いアニメと、ミリアムが抱く夫への不信感のギャップに笑えた(夫が仕事の間を縫って車で売春婦がいるオランダのホテルに足繁く通っていることをミリアムは知ってしまっている)。
ミリアムは昔の女友達ー若い頃からの彼女の派手さや自主独立な生き方などから地元の人達に後ろ指さされているージルビアに偶然、街で出会う。ジルビアはシングルマザー、一人娘は母親に預けて都会のケルンに一人住み仕事をしている。その彼女を訪ね、夫の買春について相談する。そしてジルビアの今の仕事であるテレフォン・ズーム(?)・セックスを目の当たりにしてびっくらこく。それから、売春宿だがお酒を飲むだけでもいいVIP.CLUBに連れて行ってもらう。ジルビアは売春の仕事はもうしてなくて、そのクラブのカウンターでお酒を出す仕事をしている。
夫の隠れた行動に戸惑い相談するミリアム、一方でその分野に詳しく指南するジルビア。見栄もかっこつけもなくていいなと思った。セックス・ワーカーであることを恥じず堂々としてるジルビアも、市長夫人だからとセレブ振る舞いなんか全くしないミリアムも。そういう人間関係、信頼関係がいい。ミリアムはそのクラブでジルビアと同じ仕事をする事になる。その様な職場で場違いの雰囲気を醸し出すミリアムはそれ故にお客にも売春婦同僚にも好まれる。でもミリアムは売春はしない。ジルビアからあなたはそんなことする必要ないと言われてるから。
それで色々あってミリアムはよく分からなかった世界を中から経験から知っていく、夫が通う世界を。自分には全くの未知であった男性の欲望と男性の単純さ。少し手を加えるだけで彼女は美しくもなる、ヘアメイクと服などで簡単に雰囲気は変えられる。ミリアムはでもまだ素朴過ぎる。夫がホテルですることを夫は妻=ミリアムには望んでいない。セクシーな下着で迫る妻を夫(はパジャマ姿で何だか間抜けで笑える)は驚いて拒絶する。夫=男の勝手、妻の勘違い。
クラブでも雇用関係、税金関係はきちっとしていて、書類にサインするし真面目。ミリアムが夫のホテル通いが定期的で頻繁であることを知ったのも、きちんとファイリングされたいわゆる家計簿から。ドイツー!給与収入がある人(日本でいう第2号)ー市長だってそうだーは全員自分で確定申告をする。会社任せでないから納税者意識が非常に高い。
原題は英語に直訳すると "The Things Between Us"。最後はベルントとミリアムが向かい合うシーン。二人の間の背景には廃墟の建物。そこにはVIP.CLUBがあった筈?
登場人物の誰一人、泣き叫ばない、大声ださない、威嚇しない、セックスはドライでスポーツみたい。ヨーロッパ的というかドイツ的というか。意外に受けたけれど内容に合っていない邦題が残念。妻のミリアムは、ほどけるどころかキリッと変化した。
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