劇場公開日 2018年8月24日

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「良い部分を削り、要らないものを足している」検察側の罪人 strikesbackさんの映画レビュー(感想・評価)

1.5良い部分を削り、要らないものを足している

2018年8月25日
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悲しい

難しい

原作既読です。原作も展開が雑で気に入ってはいません。雫井作品では下位の出来だと思います。

踊り、泣き組、最上の不潔な家族、その自宅、橘の裏キャラ、追っかけ、そしてインパール。もう全部要らない。原作にないものをいろいろ詰め込んで尺が足りず何とも中途半端になりました。特に戦争へこじつけようとするのは監督のカラーでしょうが突然キナ臭くなり興を削がれます。

終盤の展開を改変したのはキムタクに忖度したためでしょうか。テンポが前後半で変わるのも成功しているとは言い難い。二宮はさすがでしたが、出番が削られキムタクに見せ場を回されたかのようでした。そしてキムタクはやはりキムタクでした。

原作に忠実に映像化するのが良いとは思いませんが、原作の美点のいくつかが一部の思惑により消されてしまった作品に思えました。

strikesback
gulucyさんのコメント
2018年9月18日

詳しいご説明のお返事ありがとうございます。
なるほど、と不自然に感じていたものの理由がいくつか分った気がします。
また、役者・配役に対する考え方もおもしろいですね。
原作に興味が出たので読んでみたいと思います。
ありがとうございます。

gulucy
strikesbackさんのコメント
2018年9月8日

丁寧なコメントをありがとうございます。原作では最上は罪を暴かれ逮捕されます。彼が一線を越える決め手は親友丹野の自殺なので政治は外せません。しかし丹野の自殺は心酔する義父・高島を庇ってのもので、高島は人望厚き大政治家である必要があったのですが、映画では無意味にカルトな演出で不気味なだけ。北豊寮で共に過ごした弁護士の友人前川は、全てを捨て復讐を敢行し、そして失敗した最上の弁護を接見で申し入れ「俺はこれからお前のために生きる」と涙します。松倉はのうのうと生き延び、松倉の無実を信じ、結果最上を追い詰めた自らの「正義」に苦悩する沖野も最上に弁護を申し出ますが、最上は断り、検察を辞めさせてしまったことを詫びます。冷え切っていた家族との関係性も取り戻す兆しが見えます。このあたりは多くを語らない最上の内面がうかがえる、よいシーンだったのです。

しかし映画では、まだ捕まらない最上はあろうことか「正義の剣」を振りかざし沖野を恫喝する悪党に成り下がりました。惨めな敗北を演じきってこそ「ネオ・キムタク」になれるはずだったのに。松倉と諏訪部は漫画チックではあるものの集客要素として許容できる改変ですが、最上を共感できないレベルまで歪めてはいけません。真実を追うことで始まるはずの沖野の成長譚は端折られ、脇役感が強まりラストの慟哭もぼやけた印象になりました。諏訪部の一連の行動の種明かしがインパールというのもアナクロでダサく無理がありすぎ。

戦争と宗教で原作にないイデオロギー臭をつけ、それを思想や理念にすり替え最上のキャリア継続(ダークヒーローとしての暗躍)に結びつけたかのごとき演出が不快でした。原作ではスマートな最上はあくまで個人的な正義に溺れたのであって、大義や怨念を引きずっていたのでは決してありません。キムタクは相当な覚悟を持って臨んだ難役だったはずですが、逮捕されない結末を用意することでそれを周囲が活かしきれなかったように思います。

strikesback
gulucyさんのコメント
2018年9月5日

私は原作未読、予備知識ほぼゼロで観ましたがほぼ同じ感想でした。
観ている最中はあれもこれも伏線なのだろうな(それにしても何かバランスが悪いな)と思っていましたが、終わってみればどれも回収されず……
劇場が明るくなった瞬間眉間に皺が寄りました。
あれは何のためにあった演出なの?要らなかったんじゃないの?と思ってた演出が原作には無いものだと知れて良かったです。
ありがとうございます。

gulucy