「ヘロイン中毒患者は死ぬ!」ボブという名の猫 幸せのハイタッチ kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
ヘロイン中毒患者は死ぬ!
人間と猫の交流を描いたヒューマンドラマかと思ったら、とんでもない。薬物依存症を断ち切るための青年ジェームズ(ルーク・トレッダウェイ)の物語だったのだ。ボブと名付けられた猫は単なるアイコン、飾り物でしかないような印象でした。
冒頭からショッキングなシーンの連続。ギターはそれほど上手くないが、声が透き通っているジェームズ。ストリートミュージシャンをやっているが、金が集まらないと食うものにも困り、ゴミ箱を漁り、毎日寝床を探すのにも苦労する。やがて、路上で倒れ、病院に運ばれるものの肝炎を起こすほど深刻な状態。ただ、イギリスだけに福祉は充実。医療費だって無料だから、ホームレスだって安心だ。
更生施設のヴァル(ジョアンヌ・フロガット)の配慮によって仮設住宅みたいな部屋を提供されたジェームズ。ある日、一匹の野良猫が迷い込み、飼い主を探すも見つからず、知り合ったベティ(ルタ・ゲドミンタス)によってボブと名付けられる。ジェームズの肩に乗ってどこへでもついていくようになったボブ。これまでストリートで演奏しても誰も立ち止まってくれなかったジェームズの周りに人だかりができる、食費を稼ぐことができるようになったのだ。ちょっとしたことで逮捕され、ライブ活動も禁止されるが、その後は雑誌売りなどで食いつなぐ。
ヘロイン中毒だったジェームズは麻薬中毒者用の薬メタドンが欠かせない。部屋を提供したり服薬コンプライアンスなどで献身的だったヴァルがいたこと。そしてホームレス仲間のバズの死。なかなか恋愛には発展しないベティとの交流など、薬物を断つには好条件ばかり。特に、ベティの兄が薬物中毒死したと聞かされたこともあって、メタドンを断薬する決心をするのだった。
雑誌売りをやっているときに肩に猫を乗せている青年が珍しく映り、出版会社が本にしないかと話を持ち掛けたことがジェームズの未来を変えた。本の内容は、多分今作の内容そのものなんだろうけど、猫目線での交流なんてところは重要ではない。とにかく薬物依存症とホームレス状態からいかに立ち直ったかが重要なテーマなのです。猫よりもヴァルとベティのおかげで立ち直ったというべきか、彼女たちの優しに触れ、心温まる作品となりました。