「猫と音楽と優しい気持ちで作られた映画」ボブという名の猫 幸せのハイタッチ 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
猫と音楽と優しい気持ちで作られた映画
この映画の前に「ダンケルク」を観て衝撃的なまでの感銘を受け、なんだか心がずっしりと重たくなったような後で、この映画の優しさには本当に癒されたし救われた気分。薬物依存からの脱却という、かなり厳しいエピソードも描かれているけれども、それでもこの映画はさりげなくて温かくて優しい空気で溢れている。皮肉っぽく「フィールグッド・ムービーだ」と揶揄する気持ちもすっかり萎んで、素直にこの映画の心地よさを楽しんでいた。主人公が作中で歌う楽曲も私好みの曲で、その歌声も個人的にツボだったのもあり、どことなくジョン・カーニーの映画のような雰囲気を感じるような、そんな音楽と猫と青春の物語だった。
猫のボブを引き取ってから彼の人生は変化を見せ始めるけど、でもそれは魔法なんかの仕業みたいなことではなく、猫を連れていることで人々が彼を見る目が変わり、それが彼自身の意識の変化に繋がっていく(”Sir”を付けて呼ばれたことにあれだけ感動するのだ。それまでいかに他人から蔑まれていたかが分かる)という、非常に理にかなった展開になっているのが好印象で、間違っても「ボブが幸福を運んできた」だとかそういう映画的な言い訳を使うことはしなかったところがいい。猫の世話をするためには自分自身がしっかりしないとならないと青年も身を律するし、猫を連れていることで社交的になって自己と社会とのつながりが生まれる・・・そういった理路整然とした動機づけが物語の中に存在することによって、後半の自叙伝出版に至るまでの夢物語のような展開も嫌味なく信じることが出来た。映画自体が素直で素朴で率直。そこが良かった。
猫のボブが可愛かったのはもちろんだけど、主人公を演じたルーク・トレッダウェイがとってもキュート。あんなイケメンがあんな可愛い猫を連れてあんな美声を披露してたらそりゃ人だかりもできるでしょうよ、という感じ。隣人のベティを演じたルタ・ゲドミンタスが表現する、見た目とは裏腹な複雑な純情にも共感できたし、ただの「恋人役」「主人公の相手役」というだけじゃない存在感を出していて、彼女のことも大好きになった。
ロンドンで実際に起きた魔法みたいな物語。でも甘いだけじゃなくて、ちょっとビターな感情にも向き合った映画。皮肉屋の天邪鬼な私に、素直に魔法を信させてくれた、とっても優しい映画だった。