劇場公開日 2017年8月26日

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「自由と隷属の狭間」ボブという名の猫 幸せのハイタッチ 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0自由と隷属の狭間

2017年9月5日
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鑑賞方法:映画館

知的

難しい

 ロンドンもニューヨークや東京と同じく、格差とホームレスと麻薬の街だ。世界中の他の大都市も同様である。
 資本主義の発達した地域では、企業や個人が不特定多数の不特定な欲求を満たし、それによって対価を得ることで経済が成り立っている。最も多くの欲求を満たした者が最も多くの対価を獲得し、勝ち組と呼ばれるようになる。他者の欲求を満たすことは感謝されることであり、対価を得るだけでなく承認欲求も同時に満たすことができる。人類が資本主義に行き着いたのは、ある意味、必然である。
 しかし一方、企業や組織で働く者は、対価を得るために人格を投げ出さなければならない。承認欲求を満たしながら生きていけるのはごく一部の人たちに限られるのだ。大抵の人はそれが経済の仕組みであり、社会構造であることを知って耐えているが、耐えきれないでドロップアウトする人もいる。ホームレスが生まれ、ジャンキーが生まれる。
 本作品の主人公もその一人だ。ギターを弾いて気ままに生きるが、住む場所と食べ物には不自由している。職にありつけば衣食住は手に入るが自由を失う。自由を失っても、他人が提供してくれる様々なサービスを享受することができるから、なんとか自分を誤魔化して職に就くのだ。
 野良猫の存在でジャンキーのホームレス生活から救われていく主人公だが、それが幸せとは限らない。浮き沈みの激しい社会の中でいつまた沈んでいくかわからない。そしてそれが不幸とも限らない。
 映画を観終えた観客は現実の世界に戻り、自由と隷属の狭間で綱渡りをしている自分自身を発見することになる。

耶馬英彦