「相反する者同士が存在し合う真理」ハーフネルソン 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
相反する者同士が存在し合う真理
白と黒、男と女、大人と子供、教師と生徒、そして買う者と売る者・・・。映画は、白人教師と黒人の少女という、ほぼ共通点の無い相反する者同士を中心に動く。
最初は若き白人の教師が、黒人の小学生たちに熱心に教鞭を打つ様子や、積極的に部活動の指導をする様子が描かれる。さながら、学園ドラマか教師ドラマのような様相に見える(同じライアン・ゴズリング主演の映画「ラ・ラ・ランド」内で揶揄していた「デンジャラス・マインド」を想起させないではない)。しかし映画の本質は、教師と女子生徒それぞれの隠れた私生活における秘密と罪、そして教室で教師が語る言葉にある。ライアン・ゴズリング演じる白人教師が教壇で語る内容が、次第にこの映画の主題とリンクしていくのだ。彼は、相反するものが社会を構成する重要な要素であることを生徒たちに話して聞かせる。そしてその言葉を象徴するように、白人教師と黒人の女子生徒の存在が動き出す。
白人と黒人、男と女、大人と子供、教師と生徒、そして、クスリを買う男とクスリを売る少女。二人はアメリカの社会においてはまるで相反する存在だ。しかし、教師が語る言葉の通り、相反するもの同士が共存するからこそ社会である、相反する者同士だからこそ、その不思議な絆が成り立つというところを見せる。 とあるモーテルの一室で、白人教師と黒人女子生徒それぞれが生きる社会が交差する瞬間が映画で描かれたとき、まるでパズルのピースがピタリとはまるように映画が語り尽くされるのを感じた。NICE!!
「絆」という些か甘ったるい言葉を使ったが、実際の二人の関係はそんなに甘くもなければ柔くもない。ある意味では、それぞれの弱みを見せ合い削り合うような、そんな痛みを伴う関係性である。しかしいつしかそれが、手羽立った弱みを滑らかに削り整えていくようにも感じられる。
学校を舞台にしても、よくある学園ドラマがテーマではない。クスリに溺れる男が主人公だが「薬物ダメ、ゼッタイ。」がテーマではない。相反する者同士が存在しうる社会そのものがこの映画の本当のテーマであり、それを肯定する事がこの映画のメッセージなのだと思う。実に強固なメッセージと構成の映画で、とても良かったし、その思いがよく伝わってきた。
白と黒、男と女、大人と子供、富と貧、右と左、民主主義と共産主義・・・。相反する者たちは、頻繁に対立し合うけれど、しかし、相反する者両方が存在しなくては、この社会は成立しないのだということを、「アメリカ」「学校」「薬物」というものを通じて、物語の中で上手く実感させてくれる上質の社会派ドラマだった。
そして何より、10年間日本公開を待ち続け(半ば諦め)ていた作品を映画館で見られて本当に良かった!