「解釈について話す作品」イット・カムズ・アット・ナイト テツさんの映画レビュー(感想・評価)
解釈について話す作品
絶えず気持ちの悪い不穏な空気を感じる90分だった
世界で蔓延するウイルス?の脅威から逃れるため、厳格に暮らすポール一家
ある日、彼らの家に予期せぬ訪問者が現れ…みたいなストーリー
アバンタイトルで、一家の中の犠牲者である祖父の姿及びその始末の付け方を見せることで、余計な言葉を使わず世界観を知らしめている。
というより、具体的なこの世界で起こっていることについての言及はかなり少なめで意図的に情報を制限して、こちらの妄想や想像を掻き立てるつくりになっている。
それによって、絶えず何が起きるのか分からないことで緊張感が生まれ、見ている者を物語へ引き込んでいく。
また、ポールの息子であるトラヴィスが見る悪夢が、また気持ちの悪い感覚をもたらして、物語の緊張感を煽ってくる。
そして、登場する別の家族。ウィル一家との共同生活が始まるわけだが、ポールはもちろん妻のサラもウィル一家に信頼を置きすぎないようにしているし、ウィル一家も同様にである。
お互いがお互いの家族を守るため、協力しつつもどこが距離のある関係性が不穏な空気をもたらす。
タイトルにある"It'"は明確にされておらず、これもまた見ている者の想像に委ねられており、様々な解釈をすることが出来るだろう。
謎のウィルスなのか、その感染者か、人を疑う猜疑心か、それとも人間そのものか…
"It"を具体的な化け物や感染者の襲撃みたいにせず、人間の心理や暗部、闇という形で表現して、不気味な居心地の悪いスリラーとしてしあげている。
視聴者に色んな想像を掻き立てるために情報を制限してるために、説明不足や設定の理解出来ない部分がありながらも、絶えず続く緊張感で持たせたホラーというよりはスリラー映画
なので、ポスターヴィジュアルだけで判断してホラー映画と思って見ると、肩透かしになるかも
救いのないラストは見る人によっては胸クソ展開とも言えるか?
この誰も信じられなくなってしまった世界で、彼らはどうすべきだったのか…
心から信じていれば良かったのか?それとも接触すらしない方が良かったのか…
あと、タイトルの"night"つまり夜というのはどう解釈すべきか?
確かにウィルが家に侵入したのも、赤いドアが開いていたことも、夜に起きているが…
つまり、物語を大きく動かす展開は夜に起きているが…
それとも、トラヴィスの悪夢だろうか?
彼が見る悪夢、それは感染の恐怖もそうだろうが、人が人を、家族を始末する、そして疑い合い、誰も信じられないということへの根源的な恐怖であり、まさしく"It"の解釈にも当てはまるが…
とにかく説明を極力制限しているので解釈は様々出来るが、ある意味こちらの解釈に投げすぎとも言えるので、賛否あるのも納得
パンフのインタビューとか読んで追記↓
赤いドアを開けていたのば誰か、それについて監督は言及していないということで、改めて考えてみた。
あのドア開けたのはトラヴィスじゃないか?という考えだ。
犬のスタンリーを迎え入れるためにも、あの赤いドアを開けておく必要があった。しかし、厳しい父親のルールでそれは出来ない。
そこで起きたのは夢遊病とも言える無意識での行動だ。彼は悪夢にうなされながらも無意識にドアを開けてしまったのではないか?そしてスタンリーが来るが、悪夢の中で彼は感染者に対峙する。そこでの防衛行動がスタンリーに外傷を与えたのではないか?
スタンリーが感染していたとしても、あの外傷はなんなのか?というとこにも説明が出来るのでは?
そして、トラヴィスは床に戻り、アンドリューと手を繋ぎ、感染者を増やしてしまい、そして…
となると、彼らの悲劇の原因はトラヴィスが見ていた悪夢とストレスそしてその原因となった荒んだあの世界と家族の崩壊だろう。
自分の祖父を自分の両親が殺さなければならないという悲劇、新しくやってきた者たちへの疑心、自らが感染することへの恐怖、愛犬を見失った罪悪感、父親の厳しいルール…
様々な要因がトラヴィスを追い詰め、疲弊させた結果、悲劇は起こるべくして怒起こった…
そうとれるかもしれない。
"それ"とは人間の恐怖、悪夢、悲劇などの抽象的かつ心理的なものが具現化したということなのかもしれない
こんな風に色んな考察を語り合えたら面白いと思う。