「東京」オー・ルーシー! nobさんの映画レビュー(感想・評価)
東京
東京で暮らし初めて最初に驚くのは、電車が頻繁に遅れることだった。そしてその原因として飛び込み自殺が非常に多いことに、また驚いた。最初は「こんなに人間が多ければ、仕方が無いのかなぁー。」くらいに思っていたが、そのうち“東京“という街の異様さに気づき始めた。この街は何か、“変“だ。オリンピック開催で一時的に人口が増えたこともあったろう。だが数では無い人間の“質的な異様さ“を感じていた。そこに“コロナ“が来た。
人は減った。通勤電車の乗客は明らかに減った。ただ、統計を見たわけでは無いが、電車に身を投げる人の数は減っていないように思える。そして相変わらず、すれ違いざまに肩が当たろうが、何も言わずに通り過ぎてゆく。
本作は、そんな街に暮らす普通のOLの普通じゃない物語である。
「ロードムービー」の体裁をとってはいるが、結論から言えば「非ロードムービー」と呼びたくなるような内容となっている。“アイデンティティの回復“や“自由への回帰“といったものがロードムービーのカタルシスだとすれば、本作には見当たらない。反対に、あがけばあがくほど、しがらみの糸が体に絡まる。後半の舞台となるアメリカの空も、所謂 “異化効果“ 的に作用して登場人物たちを突き放す。“救済“や“癒し“、“逃避“すら簡単には手に入らないことを繰り返し突きつけてくる。
人が自らの命を絶つ理由は様々だろう。特に今はコロナ禍も含んだ自然災害による経済的な絶望や圧倒的な喪失といったものに目が行きがちで、経済活動が構造的に内包している “コミュニティ崩壊“ に言及されることはめっきり少なくなった。2017年作品ではあるが、今だから見ていただきたい作品であるように思う。
逃れられないしがらみの中で必死に生きる主人公は、“可笑しさ“を含んだ“可愛さ“があり、愛おしい。
残念な点をあげれば、主人公が所属する会社のディティルなど、もう少し繊細さが欲しかった。ただそれも、大きなマイナスポイントでは無いような気がする。
不器用に生きる普通の私たちへ、素敵な応援歌である。