「親離れできないアダルトチルドレン」マイヤーウィッツ家の人々(改訂版) かなり悪いオヤジさんの映画レビュー(感想・評価)
親離れできないアダルトチルドレン
モラトリアムや引きこもり、オタクとは一味違うアダルトチルドレン(大人になりきれない大人たち)を優しい眼差しで見つめるノア・バームバック。この人、自立した大人になれない、いやなろうとしない原因を親の離婚に求めた映画をずうっと撮り続けている映画監督さんなのである。『イカとクジラ』、『ヤングアダルト NY』 、本作、そして直近の『マリッジ・ストーリー』とそのテーマ性にはブレがないが、このバームバックが撮った映画にはどこか共感できない、というかはっきりいって好きではない。
彫刻家の父親ハロルド(ダスティン・ホフマン)に振り回される3兄弟ジーン(エリザベス・マーベル)、ダニー(アダム・サンドラー)、マシュー(ベン・スティラー)。現在は無職の元ピアニストダニーには一人娘のイライザがいる。一応ビジネスマンとして成功している異母兄弟のマシューも兄貴同様離婚秒読み状態だ。離婚と再婚を繰り返す父親のことを疎ましく思ってはいるが心のどこかではハロルドに愛されたいと思っている3兄弟は、何かというと父親の側に戻ってきては心の傷をなめあうのである。そんなハロルドが意識不明になって…
この後重大な事件が起こるかというとそうでもなく、ウダウダとした噛み合わない会話が淡々と続いていくだけ。映画のストーリーを追ってもほぼ意味がないのはいつものバームバック流で、観客がおかれている現実世界の家庭環境との共通項をいくつ見いだせるかで本作品の評価はきまってくるだろう。私が育った環境とはほとんど真逆のマイヤーウィッツ家は、うらやましく感じられる一方で、いい年こいてこいつらいつまで甘えりゃ気がすむんだと思えてくるのも事実。この価値観の相違はいかんともしがたく、一連のバームバック作品に私自身が馴染めない理由もまさにそこにあるのだ。
しかしそんな私も、本作品中の唯一といってもいいある演出法と、本作品をNetflix独占配信にした監督の意図には好感がもてる。マイーヤーウィッツ家の面々が感情を高ぶらせる場面で必ずといっていいほど、会話を途中でぶつ切りにするという荒業を見せているのだ。言い替えるならば、観客の過度な感情移入を妨げる演出法をわざわざ取り入れているのである。バームバック自身の非常にプライベートな部分を露出したことに対する一種の“照れ”が、そのような演出を監督に選ばせたのではないだろうか。わかる奴にだけわかればいい。あえて本作を劇場公開にしなかったバームバックの意図もそこにあったのではないだろうか。