劇場公開日 2017年7月29日

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「ローサの最後の涙がすべてを物語る」ローサは密告された talkieさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ローサの最後の涙がすべてを物語る

2024年5月20日
Androidアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

<映画のことば>
「あっ、ローサおばさんだ。
アイスある?
0.5グラム売ってもらえない?」

ラストシーンで。おそらく、あれが彼女の初めての食事だったのでしょう。
ほんの粗末なものだったとしても。
警察署から外に出て以来の。

そして、そのときに、彼女の胸に去来し想いは、どんなだったでしょうか。

長く空腹だったことの惨めさ
最後の金策にも成功して、なんとか急場を乗り切ることができたことの安堵
「アイス」の販売に手を染めてしまったことへの悔悟
誰かが密告したのだろうか、その不安と密告者に対する恨み
自らの無思慮についての怒り
もともとの貧乏の辛さ、悲しさ

そのどれだったのか、はたまた、まったく別の思惑だったのか。
まだまだ観賞眼の乏しい評論子には、いずれとも断定はしかねるのではありますけれども。

おそらくは、貧乏から抜け出すために、方便として手を出しただけのはずだった「アイス」の販売ー。
よもや、それが、まさか自分や家族の生活をいっそう苦しくさせることになろうとは。
その矛盾に思いが至ると、観終わって、本当に切ない一本だったと思います。

内容的には劇映画で、登場人物も場面設定もフィクションのようですけれども。
しかし、淡々と進むストーリーは、まったくをもって、一編のドキュメンタリー作品を観ているかのようでした。

監督インタビューでは「本作で描かれているのは完全な社会ではないかも知れませんが、人間性についての物語です。助けを求めていたり、チャンスを与えられれば、自らの人生を変えることのできる人たちの物語です。サバイバルの物語でもあります。最も重要なのは、家族の物語だということです」と語られていましたけれども。

その製作意図のとおり、申し分のないヒューマンドラマにも仕上がっており、文句なく佳作の評価が適切な一本だったと思います。

(追記)
本作を警察関係者にも観てもらったか、というインタビュアーの問いに、警察にもDVDを送ったとした上で、監督は次のように答えています。
「一部の警察官が不正を働いているのは事実ですが、すべての警察官が同様な訳ではありません。この映画は警察の暗部を描いていますが、それは実際に起きていることでもあります。もし、この映画を観た警察官が不正を働いていないのであれば、恥だと思う必要はないのです。それは、世の中と同じです。よい人もいれば、悪い人もいる。社会の悪い面を映画で描くことが、普通の観客にとって必要な時もあります。映画を観た人が、何か行動を起こす、社会を変えようとする、という作用をもたらすことがあります。」

この監督のコメントを聞いて、評論子の脳裏には『日本で一番悪い奴ら』(実は、評論子もエキストラとして映っていたかもしれなかった・汗。エキストラでけっこうな協力したので、エンドロールには、確か評論子らが入っている映画サークルの名前が入れてもらえていたと記憶しています。)が思い浮かびましたけれども。

翻(ひるがえ)って考えて、日本の警察も、同じように腹は太いのでしょうか。
気になってしまったのは、独り評論子だけではなかったことと思います。

talkie