「「インド映画好き」くらいでは理解しきれない」裁き つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
「インド映画好き」くらいでは理解しきれない
民族、信仰の違い、カースト、そして裁判制度、これらが絡んだ複雑な物語を形成していると思うが、インドの複雑さをそこまで深く理解しているわけではない自分には、内包されている「メッセージ」的なものは受け取れなかった。
カースト制度が今でも生きているとか、インド国内で使われる言語がたくさんあるからインド人同士でも言葉が通じないとか、そういった表面的なことは知っていても、その奥にあるものまではわからない。
例えば皮肉は、共通の常識があってこそ成り立つが、皮肉のように構成される本作を理解できるほどの「インドの常識」が自分にはないのだ。
一つ、自分でも分かることで気になったのは、カーストの一番下であろう亡くなった清掃員とその家族の生活が描写されなかったことだ。
本作に登場する全てと言っていい人物は、誰も亡くなった清掃員本人を気に留めない。亡くなった清掃員の妻でさえその様子はない。
警察や検察にとっては被告人を有罪にするための「道具」のようである。
人権弁護士も目の前の弁護しか見えていない。カーストによる差別を訴える講演をしたりしているが、目の前にある無意識の差別に気がついていないんだ。
今もどこかに亡くなった清掃員のような生活を強いられている人々がいる。にもかかわらず、裁判官も検察も弁護士も生活の中では自分の家族についてだけでそれ以上は何もない。
「物」のように意識の外に存在する、誰にも気にされることのない人々に気付く人はいないのだろうか。インドのカーストの根深さに怖さを感じる。
亡くなった清掃員の生活を見せて気付かせるのではなく、見せないことで皮肉のように気付かせる手法は、中々挑戦的だなと感心してしまう。
そして、そのような手法で全編紡がれているであろう本作は、ただのインド映画好きには少々ハードルが高かった。
それでもつまらないというわけでもない。物語のメインとなる裁判は、嫌でも気になるところだ。
なにせ、なんの罪なのか、なぜ罪なのか、曖昧なのだ。自殺教唆罪ならまだしも幇助は無理ないか?
いつまでも、歌ったかもしれない歌の内容を精査しないのも気になる。焦点はそんなところにないの?
そして、時間だけが無駄にどんどん経過していく。終いには長期休暇だとさ。
こういった気になるところは全部、皮肉として内容に反映されているんだろうな。それが分からない自分の力不足が悲しい。