「負の連鎖から正の連鎖へ」はじまりの街 kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
負の連鎖から正の連鎖へ
改めて、子どもってたいへんだな、と思います。自分の力で生きていけないが故に親に依存せざるを得ず、親の都合で運命が二転三転していく。大人ならばそれなりにあがけるけど、子どもは単に翻弄されるだけですからね。
親のDV、そのため遠く離れたトリノにある母の友人宅で過ごさなくてはならなくなったヴァレリオ。突然、住み慣れた街から切り離され、友だちとも離ればなれ。これは不条理、マジでキツいですよ。そもそもDVは児童虐待ですし(暴力の目撃は心理的虐待ですよ)、心に負ったダメージは半端じゃない。淡々とした描写ですが、ヴァレリオの置かれかた状況は壮絶です。
この状況下で、学校に適応して友だち作るなんて無理無理。ただの引越しですら子どもにとってはたいへんなのにね。
公園にいる移民のストリートガールに惹かれていくのも、自分の寄る辺なさを相手に重ねて見ているからかもしれません。
そんなヴァレリオ少年が再生するには、伴走者が不可欠です。バルのマスター・マチューの存在はデカかったですね。ヴァレリオに欠けていた父親機能を果たし、ちゃんと思いを受け止めていく。自転車を直して2人が交流するシーンやヴァレリオが失恋の思いを吐露し、それを受け止めていくシーンは出色の出来だと感じました。
そんなマチューも孤独です。ヴァレリオの母を受け止めたカルラも孤独。
この映画は、少し余裕のある孤独な人が、切迫した孤独な人に手を差し伸べる作品です。カルラなんか犬を飼うようになったりして少し成長しちゃうなど、差し伸べた側にも暖かな変化がある。負の連鎖から正の連鎖へと向かっていく様子を繊細かつ丁寧に描いた、本当に良心的な映画でした。
あと、本作で気になったイタリアの生活について。
カルラがヴァレリオに対して、「13歳だからコーヒーはダメよね」みたいなことを言ったと思います。イタリアでは子どもはコーヒー飲んではいけないのだろうか?ググってもよくわからなかった。
それから、児童心理の専門家にアクセスするのに両親の許可が必要、という被虐待児に対して酷すぎる法律があることにビックリ。イタリアは閉鎖病棟をなくすなど、精神保健に関して進んでいる印象を持っていただけに驚きは大きかったです。