「劇中ミュージカル"青春の向こう脛(ずね)"が、より完成されている!」心が叫びたがってるんだ。 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
劇中ミュージカル"青春の向こう脛(ずね)"が、より完成されている!
岡田麿里による、とてもよくできたプロットでありながら、アニメ版のキャラクターは好き嫌いが分かれた。良くも悪くもオーソドックスな"日本のアニメ顔"であり、アニメ嫌いのスイートスポットにストライクなのである。
デザインは、"超平和バスターズ"の田中将賀であるが、高校生としては幼すぎる。ちなみに田中将賀は歴史的ヒット作「君の名は。」(2016)にも参画している(オープニング作画)。思い返すと「君の名は。」も、登場人物とストーリーとのギャップを否定できない。その点、本作の実写版は実年齢どおりに近づけることができているのがいい。
劇中ミュージカル"青春の向こう脛(ずね)"が、より完成されている。アニメ的なナンセンスな設定(玉子の妖精とか)も削除され、流れもスムーズだ。これは単なるアニメの実写版というより、改訂版ないしは進化版(Ver.2.0)と言ってもいい。
オリジナルアニメ「心が叫びたがってるんだ」(2015)を原作に、同じアニプレックスが実写化。ここがミソ。アニメ原作を持つ同社が、実写制作を主導することは珍しい。それだけオリジナル製作者の意図が強く反映されている。
幼少時に起きた事件のトラウマで、しゃべると腹痛に襲われる女の子、成瀬順。クラスメイトの坂上拓実(Sexy Zoneの中島健人)も本音を押し殺し、無難に学校生活をやり過ごしている。高校3年生になった順は、拓実とともに、クラス担任から"地域ふれあい交流会"の実行委員に任命されてしまう。しかも担任の発案から、クラスの出し物はミュージカルに決まる。
そして、彼女と、舞台ミュージカルに挑戦する過程で、拓実は"しゃべれないなら、歌えば"と提案する。主演は、NHK連続テレビ小説「べっぴんさん」(2016)の芳根京子が成瀬順を演じる。
高校生がオリジナルミュージカルを書く・・・という設定ハードルの高さを、"もっともらしく"しているのは、クラシックや長く愛される名曲を使った、ジュークボックス・ミュージカルの一種であること。耳慣れた旋律が多く親しみやすい。しかも主人公の山本拓実にピアノの素養を持たせていることで、選曲の過程を自然にした。
また、しゃべれないがゆえに妄想癖を持ったと思われる(?)成瀬による創作世界の描写も控えめにしている。クラスメイトに振り付けを行う、E-girls石井杏奈のキャスティング(仁藤菜役)も見事で、演技力とパフォーマンス力の一挙両得だ。
さらに注目は、佐藤浩市の息子(つまり三國連太郎の孫)である新人・寛一郎が田崎大樹役で大抜擢されている。これが新人にしてはしっかりした役作りをしている。同じ実行委員の4人は、それぞれに心の傷を持っていて、それが徐々に変化していく。
観終わると思わず、"Over The Rainbow"と"ピアノソナタ第8番「悲愴」"を口ずさんでしまう。ああっ。
(2017/7/22 /ユナイテッドシネマ豊洲/ビスタ)