「解らないから愛おしい」勝手にふるえてろ mao someさんの映画レビュー(感想・評価)
解らないから愛おしい
劇中、「ヨシカは解らない事だらけなんだよ、だから好き。」というニのセリフがあります。
私自身もこの作品に同じ感情が湧きました。
初見では解らない事が沢山あって、理解したさに何度も観てしまう。
その位、魅力的な作品なんです。
ニは何故、ヨシカが胸に赤い付箋を付けていた事で気になりだしたのか。
処女の事をチェリーと言うのは、処女膜が破れた時の血をさくらんぼの赤色に例えての事。
つまり、赤色は処女色。
ゆえに、この劇中の赤い付箋は処女性の象徴。そしてニにとっては処女性=ピュア。
出会いの時点では、ニはヨシカの事を何も知らない訳だけど、本能的にヨシカの処女性=ピュアさを感じとって好きになったんだと思います。
ラスト前、ニを押し倒した拍子にヨシカの胸からニの胸に付箋が落ちました。
処女性の象徴だった赤の付箋が、ニの濡れたシャツによって深い赤に染まっていく。
そのさまに、どんどん侵食してくるニと、それを受け入れるヨシカとの関係性が重なります。
そして、それと同時に響く卓球音。卓球は相手の動きを見ないとラリーを続けられません。
相手が取れないタイミングや場所に球を打てば、その瞬間に終わってしまう。
そこに人とのコミュニケーションを重ねて、自己完結型だったヨシカが初めて他者と向き合った事を表現してるんですね。
物語中盤での二人の卓球シーンでは、ニの強すぎる球(愛情)をヨシカは打ち返せずラリーが終わってしまう。
でも、ラストシーンの卓球音は打ち合いがずっと続いていました。
その音が二人がやっと意思疎通を取れた事、これからずっと関係が続いていく未来を予感させてくれます。
そして、ラストのヨシカのセリフ「勝手に震えてろ」
現実の人間と向き合うのが怖くて、妄想の世界で震えていた自分自身への言葉ですね。
同時に脳内彼氏のイチと決別して、現実の霧島(ニ)に飛び込む自分への叱咤激励かな。
脚本、カメラワーク、俳優さんの演技、すべて完璧な傑作だと思います。