「ふたりの女性の心の機微を充分描いた作品」ルージュの手紙 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ふたりの女性の心の機微を充分描いた作品
フランス、パリ郊外の小都市に暮らす49歳の助産婦クレール(カトリーヌ・フロ)。
ある日、彼女のもとにベアトリス(カトリーヌ・ドヌーヴ)という女性から電話が入る。
ベアトリスは30年前に別れた義母(父親の後妻)だが、最近、末期の脳腫瘍が発見され、不安になったので電話したという。
自由奔放で自らの意志で家を飛び出し、父と自分を捨てたことに蟠(わだかま)りがあるクレールだったが、ベアトリスと会うことにしたところ、ベアトリスは相変わらず身勝手で父が彼女の出奔後に自殺したことも知らないありさまだった・・・
というところから始まる物語で、見どころはふたりのカトリーヌの共演。
真面目一辺倒のクレールは、再開後もベアトリスへの蟠りは溶けはしないけれど、彼女の自由奔放さによって自分の中の「女」の部分が刺激されていくあたりが興味深い。
クレールが懇意となる中年男性ポールを、ダルデンヌ兄弟監督作品の常連オリヴィエ・グルメが演じているが、一癖もふた癖もあった頃から比べると十分に脂が抜け、粗野のように見えて優しい男を好演している。
ベアトリスを演じるカトリーヌ・ドヌーヴも、まぁ最近の彼女がよく演じる役どころの延長線上にあるような設定なんだけれども、不安や苛立ちを充分に演じていて、こちらも好演。
主役のお気に入り女優、カトリーヌ・フロも当然のように好演なのだが、49歳というのには少々無理があるのではありますまいか。
劇中、再会の際、ベアトリスに「あなたは昔から老け顔だったからね」なんて言わせてはいるけれども。
クレールが助産婦なので、劇中幾度となく登場する出産シーンは実にリアル。
死産の子どものシーンは息をのみました。
そんな、誕生に立ち会うことが多いクレールが、死を目前にした義母と出逢うというあたりに映画の奥行きも感じさせられるし、日本タイトルにもなっている最後の手紙も味わい深いが、黙って姿を消すベアトリスを象徴する、川に浮かんだ小舟の沈みゆくラストカットは、映画に余韻を与えている。
監督は『ヴィオレット ある作家の肖像』のマルタン・プロヴォ。
ふたりの女性の心の機微を充分とらえているが、やや尺が長いかなぁ、というのが正直なところ。
もう15分ほど詰めれば、ピリッとした秀作になったのに、と思いました。