「香港人の不安と恐怖」十年 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
香港人の不安と恐怖
このオムニバスは、短編ごとの映画としての出来不出来があるものの、通底した当局への疑念が露だ。
最初の短編「エキストラ」では、市民の不安を煽ることを目的としたテロ行為がでっち上げあげられる。
誰も死なない筋書きをうそぶく陰謀の主。しかし、それを信じて実行犯の役をさせられた者は、警護の警察に即時射殺される。
しかも、もしも、この計画の銃撃の対象が間違って死んでも、首謀者たちには痛くも痒くもない。共産党以外の政党の要人なら、むしろいなくなったほうがいいから。
最後から二つ目の短編「焼身自殺者」では、これまでの天安門事件などの焼身自殺者が当局の謀によるものではなかったかという疑念に触れている。
弾圧するだけではなく、それへの抵抗ですらも、当局が一枚噛んでいるのではないか。この、もはや何も信じることができない、香港人の焦りと不安。
文化大革命のような混乱を再び現出されれば、小さな香港社会などあっという間に荒野に変わってしまう。そのことへの恐怖が表現された最後の短編「地元産の卵」。その少年隊が、ねっとりとした恐れを残す。
とはいえ、香港がイギリスの植民地であったことは、悠久の中華世界の歴史に残る汚辱の点であることには違いない。
その歴史への可逆的な言説を絶対に認めまいとする、中国の支配層の言動を批判できる者もいない。
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