「静謐な空気感に包まれる」Ryuichi Sakamoto: CODA 猫シャチさんの映画レビュー(感想・評価)
静謐な空気感に包まれる
ドキュメンタリーと言うと、とかくドラマチックに盛り上げていく手法が散見されますが、本作は終始淡々と、坂本龍一の半生と"音"への模索を描いています。このフィルムからは静謐で厳かな、冬の朝を思わせる空気感が感じられるのですが、それは坂本龍一の人柄に依るものか、あるいは監督のスティーブン・ノムラ・シブルの姿勢に起因するものか・・恐らくは、その両方なのでしょう。
音の構築を極めた音楽家がある地点まで到達した先に自然(環境)音に着目したり、老齢期に至った芸術家が環境問題に関心を寄せるのよくある事。私自身は、原発反対!と芸術家がマイクで言うのはあまり好きでは無いのですが(表現者なら自身の仕事で表現して欲しい)、たださほど見ていて嫌にならず、また意地の悪い突っ込みをする気にならなかったのは、ひとえに感情を煽る意図を見せず、淡々と坂本の思想と音楽の指向を追うだけの、この映画の有り様に好感を持ったからでしょう。
現在の創作だけでなく、過去の創作音楽(戦メリ、ラストエンペラー、シェルタリング・スカイ等)を、当時の裏話を交えて聞けるのは有り難い図らいで、それだけでも一聴の価値ありです。この2017年の晩秋に見るからこそ価値のある映画だと感じるので、是非劇場へ。
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