「男女の関係性に疑問」劇場版 Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ 雪下の誓い 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
男女の関係性に疑問
よくわからないが観た。
そしてよくわからないまま劇場を後にした。
普段からこのシリーズのファンではない人間がこの作品を観るとほぼ筆者と同じ感想を持つのではないだろうか?
なんでも「Fate」というシリーズのスピンオフ作品の『プリズマ☆イリヤ』の、さらにその前日潭なのだとか。
まず『劇場版 魔法科高校の劣等生 星を呼ぶ少女』を観て感じたことといっしょになるが、作画上で西洋人と日本人の区別がつかない。
ジュリアン・エインズワースは西洋人なのか?
普通の日本人の高校生にしか見えない。
また聖杯戦争がなぜ日本で行われるのかがよくわからないし、聖杯が日本人の女の子という設定もよくわからない。
聖杯はそもそもキリストの遺骨や血に関係しているとも言われ、古くはアーサー王物語に登場するなど完全にキリスト教圏のお話である。
本作で士郎を助けるのが神父だったり、昨今自宅で和服を着る少年少女がいるとも思えないのに士郎や美遊が和服を着ていたり、和洋文化の混ざり具合もちぐはぐで奇妙だ。
なおマスターたちとの戦いがダイジェスト版みたいに継ぎはぎのように編集されていたので、実は本作はTV版のダイジェスト映画なのか?と疑っていたのだが、後から90分以内に作品を収めるために泣く泣く戦闘シーンを削ったのだと知った。
そもそも作ってから削る前に脚本段階で何か方法はなかったのだろうか?
またせっかくの戦闘シーンを削ってまで90分以内に収めなければいけなかった大人の事情にも釈然としない。
そして最大の違和感はやはり『劇場版 魔法科高校の劣等生』と『ノーゲーム・ノーライフ ゼロ』を観ても感じたことになるが、周囲の少女が絶対的に主人公の少年を慕い過ぎる。
主人公は想いを寄せてくれる女子に興味がなくて一方的に好かれる設定は、それこそ『機動戦士ガンダム』のアムロとフラウ・ボウの関係からずっとある定番の設定ではあるが、本作の間桐桜のようにいくら兄が暴走したとはいえ家族を裏切り自分の命を投げ出してまで士郎を救うのはやり過ぎに思える。
う〜ん、現実世界にこんな娘はおらんぞ!
息を引き取る桜を抱きかかえて慟哭する士郎、やはり本作はオタク向け作品なんだな、と実感した瞬間であった。
これから書く内容はあくまでも偏見だが、女子が好んでよく観る『ユーリ!!! on ICE』のようなアニメを本作を好む男子は絶対に観ないように思う。
そしてこのシリーズの基本は目のパッチリ大きく開いた女子(時に見た目が幼女)が闘う作品のようだ。
制作側も「燃え」と「萌え」が作品の肝だと言い切っている。
もちろん例外は存在するだろうが、本作の男性ファンと『ユーリ』の女性ファンが交わりそうな接点が全く見出せない。
「萌え」自体は海外にも浸透しているようなのでこの手の作品がこれからも制作されていくだろうが、同時に何か一抹の不安も感じる。
昔から少年漫画と少女漫画の棲み分けがあったとはいえ、本作を観ていてアニメにおける男女の需要性に大きな隔たりを垣間見た気がした。
筆者は人間関係の構築にあまり熱心ではなく恋愛経験も豊富とは言えない。
しかし老婆心ながらこの手の作品が若い男女の現実の恋愛に悪影響を及ぼさないよう祈りたい。
本編のTVシリーズはもっと魅力的な作品かもしれないが、少なくとも本作を観る限り観たいとは思えなかった。