「ハルとリチャードは「そっくり」なんだ!」嘆きの王冠 ホロウ・クラウン ヘンリー五世 えいいちさんの映画レビュー(感想・評価)
ハルとリチャードは「そっくり」なんだ!
「リチャード2世」「ヘンリー4世 一部、二部」を見たあと、トークイベント付の「リチャード3世」を先に見て、そして「ヘンリー5世」を見ました。
この順番で見たことで、びっくりな発見がありました。「ハルとリチャードが、女を口説くシーンが、まるきりソックリだ」ってこと。
いやそりゃ、同じシェイクスピアが書いてるんだから…、って、そういう話じゃなくてさ。
フランス軍相手に大勝利したヘンリー5世王が、フランス王位を手に入れるために、フランス王女の愛を得ようと口説くシーン。美男美女のとってもいいシーンなんだけどさ。見てるうちに、どんどん、「これ、おんなじシーンを最近見たぞ。てゆうか昨日!」って気分になってくる。
そうだよ、リチャードがアンを口説く、自分が殺した男の妻だった女を口説き落としてしまう⁉、あの名場面。
そっくりだ。
片や英国史上最悪の王、片や英国史上最高の英雄。リチャードはクセ者顔、最高!"なカンバーバッジ、ヘンリーは超色男トム・ヒドルストン。なのに、「やってることは全く同じ」。
このヘンリー5世王は、いくらいい男でもさ、フランス人を大量に殺して、ここに乗り込んで来たんだよ、それ、フランス王女としては、どうなの? そいつの甘い言葉に易々と乗っていいの?
そして、このトムヒは、どう見ても「本気で愛なんか信じてない」。野心が前面に出てるのが、わかんないかなあ、この王女さま。
シェイクスピアって、基本的にミソジニーだよね。「尼寺に行け!」「弱き者、汝の名は女」。だいたい、女なんて女なんて、って言ってる。
だから口説き場面って、本質は「騙し場面」に見えるんだと思う。
そう思うと、「ヘンリー四世 一部、二部」で見せていた、ときどきゾッとするほどクールな「残酷さ」を見せる、人生ぜんぶを計算してるみたいなトムヒのハル王子の造形が、実に見事な伏線だったなあと思えてきました。
見事ですよ、このシリーズ。
そうだよね、この「歴史シリーズ」のなかで、誰一人、そんなに能天気でいられるはずがない。
これを作ったBBCは「EUを離脱した、テロが頻発する、戦争と直に向き合ってる、現代の英国の放送局なんだ」ってのを忘れちゃいけないんです。