嘆きの王冠 ホロウ・クラウン ヘンリー四世 PART1のレビュー・感想・評価
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前作とは監督も変わり内容も一新
ホロウ・クラウンシリーズ7作の第2作目に当たる。
第1作目『リチャード二世』では、カラー化とでも呼ぶべき白人世界での無理矢理の有色人種の起用とシェイクスピア独自の台詞まわしの多用による映像からの浮きっぷりを大きな問題点として指摘した。
結論から言うと、今回はカラー化の問題はなくなり、会話の中でのシェイクスピアの台詞まわしも大幅に抑えられた。
そのため映画そのものを理解しやすくなった。
前作とは監督が違い方針も変わったようで安堵した。
この作品、タイトルは『ヘンリー四世』だが、一番面白い登場人物は何と言っても王子ハルの悪友フォルスタッフである。
『フォルスタッフ』という同名の主役をつとめるオペラが存在するくらい人気がある。
現代社会からするとこの手の人物はただの小悪党になるが、こういう人物に茶目っ気や魅力を持った人物に仕上げることができるのが大作家シェイクスピアの大作家たる理由であろう。
金と女にめっぽう弱く、小心者ですぐに人を騙す大酒飲みのデブ。
字面だけを追えば女性から敬遠される最悪の男である。
しかしハル王子との当意即妙のやり取りを観ていると不思議とこの男なら「しょうがないか」という気にさせられる。
似たようなキャラクターとして日本では『ゲゲゲの鬼太郎』のねずみ男を連想させる。
この手の小悪党に限らず魅力的な悪役というのを日本であまり見かけなくなってきた。
今年も不祥事を起こして引退に追い込まれた芸能人がいるが、善し悪しを別として正しくあることに強制的な社会に住んでいると作家も魅力的な悪役を創り出せる思考になかなか至らないのかもしれない。
前作の『リチャード二世』も同様だが、元々は舞台や劇場の監督が映画を監督すると映像表現よりも言葉に頼る傾向を感じる。
これは作家が映画監督をやるとより過剰になるかもしれないのでなんとも言えないが…
前作の監督は酷かったが今作も時々登場人物が唐突に比喩が多く回りくどいシェイクスピア調の台詞で語り出す場面がやはりある。
話の流れを区切るものではないが停滞はするし、映画全体として何かそこだけ不自然さを感じてしまう。
監督がこの台詞を好きでどうしても削れなかったものかなと勝手に勘ぐってしまう。
それとも原作自体でその手の表現が前作に比べると極端に減っただけなのか?
いずれにしろシェイクスピア調の台詞は映像表現とは相性が良いとは思えないが、今回ある発見があった。
ヘンリー四世王役のジェレミー・アイアンズが語る分には問題なかったのだ。
ハル王子役のトム・ヒドルストンが語ると語らされている感が漂う。
舞台経験が豊富にあるだろうアイアンズは台詞を自家薬籠中のものにし、ヒドルストンはまだまだ自分のものにできていない未熟さの現れなのだろうか。
なお今回は前作ではほとんど描かれることのなかった戦闘シーンが終盤で長く入る。
ただあくまでもシェイクスピアの原作を土台にしているせいか、特にヒドルストンと敵のホットスパー(ジョー・アームストロング)の一騎打ちはバタ臭く、全体を通してもリアルさにこだわったものではない。
が、西洋の中世物語を感じさせるには十分だろう。
ハル王子がヘンリー四世王の真似をする下りで実際にヒドルストンがアイアンズの口調や声音を真似するが、ここまでする必要はないほどなかなか似ている。
演出なのかヒドルストンの提案を取り入れたのか気になるところだ。
衣装デザイナーも前作とは別の人物になっているが、現代風に寄せているのも、ただでさえ冗長な台詞の多いシェイクスピア劇では返っていいのかもしれない。
次回の第3作目『ヘンリー四世 Part2』も監督は同じなので、その手腕に期待したい。
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