「「お前ら全員、クソだ」」トンネル 闇に鎖(とざ)された男 桜さんの映画レビュー(感想・評価)
「お前ら全員、クソだ」
何処にでもいるごく普通の妻子ある男性、イ・ジョンスが、車を運転中に、突如崩落したトンネルに閉じ込められる。車内にあるのは水の入ったペットボトル2本と娘に買ったバースデーケーキのみ。さて、その男性の行方やいかに!?
と、ここまで聞くと、大抵の人はその不幸な「事故」にあった男性の生死が気になるところだろう。
ただ、本当に大事なのはそこではない。
そもそも何故トンネルは崩落したのか?
そして、何故イ・ジョンスは35日もの間トンネルの中にいなければいけなかったのか?
この映画の肝はここにあると思う。
この映画を既に見た人ならお分かりだろうが、そもそもトンネルの工事自体に不備があり、その崩落したトンネルだけでなく、韓国中の至る所にあるトンネルが同じ設計だという。
杜撰な工事を依頼しているのは、勿論韓国政府。
そして、政府はトンネルから救出する姿勢を露骨に世間に見せ、不安な表情を浮かべるイ・ジョンスの奥さんと無理やり写真を撮り、世間へのアピールとして「事故」を取り扱う。
そして、そもそもこれは事故ではない。
災害には「天災」(地震・台風・雷・洪水など自然現象によってもたらされる災難)と、「人災」(人間の不注意・怠慢などが主な原因で起こる災害)があるが、明らかにこれは後者の「人災」であることが分かる。
トンネルの中のイ・ジョンスの命綱であるケータイに身勝手に掛け、「今のお気持ちは!?」と自分達の記事やニュースのネタの為だけに尋ねるメディアへの痛烈な風刺も込められていて、メディアやマスコミがクソなのは日本だけじゃないんだな、と感じる。
1度は救出出来そうにはなるが、マスコミの人間?が、「どうせならもっとトンネルにいてくれれば、世界新記録なのになぁ」と呟いたり、そもそも設計図がめちゃくちゃだったことがわかり、2週間近く掘っていた救出作業が全て無駄になったりと、本当にどいつもこいつも、、、と思わせられるシーンが沢山なわけだ。
「工事を続行するには金がかかる!これ以上経済を止められない!」と、人外のような発言をする政治家。
工事中、全然関係ない所の事故で死んだ工事作業員を皮切りに、「トンネルの死体を掘るために人が死んだ!こんな無駄なこともうやめるべき!」と世論がなってしまう国。
結局、これ以上救出作業にお金と時間を掛けられないと、奥さんにどうせまた崩れるであろう「第二トンネル」の工事を再開する(つまりイ・ジョンスの救出作業を中止する)同意書を突き出して、泣く泣くサインをして救出作業は中止になってしまう。
泣きながら聞いているか分からない、生きているか分からない夫に向けてラジオでその同意書にサインをした事を話す奥さんが、見ていられない。
そこで諦めないイ・ジョンスがとにかく凄い、、、
俺だったら絶対諦めてそうなものだが、その最後のもがきのお陰で生存を確認出来、結果救出に成功する訳だが、まぁよく生きていたなぁと。
肝心の救出場面で、あっさりイ・ジョンスの近くまで助けに行けているが、あれはどうやって行けたのだろう。
まぁそれはいいとして、死にかけのイ・ジョンスを運ぶ際にも、道を塞ぎまくって写真を撮りまくるメディア、さっさとヘリで運べばいいのに、世間へのPRの為にゆっくり歩いて一緒にヘリに乗ろうとする政治家。
とことん胸糞の連続だが、イ・ジョンスが無事生還して、最初に言った言葉は、スカッとしたなぁ。
本当にこの言葉に尽きる。全員まとめてクソである。
最後に、イ・ジョンスが退院し、奥さんの運転する車での帰り道、トンネルを通過する。
その時のイ・ジョンスの怯えた表情が凄く印象に残っている。
彼が恐れているのは、本当にトンネルの崩落だけだろうか?
韓国映画はあまり見た事が無かったのだが、こんな風刺の効いた映画ばかりなのか?
自分は韓国には訪れた事が無いので、韓国人の人柄や国風をよく知らないのだが、こういう映画を見ると、韓国人ってこういう人ばっかりなのか?と思ってしまうが、勿論そんな人ばっかりではない、んだよね?
そうだと信じたい。
普通に面白かった。
他の韓国映画も、機会があれば見てみよう。
長々と失礼致しました。