「ウェンディの表情、ルーシーの愛らしさが印象的だけど、それだけで終わらない、苦さも含んだ一作」ウェンディ&ルーシー yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
ウェンディの表情、ルーシーの愛らしさが印象的だけど、それだけで終わらない、苦さも含んだ一作
鑑賞後も、ウェンディ(ミシェル・ウィリアムズ)のハミングがいつまでも脳裏でこだまするような作品です。
「旅」、「漂泊のアメリカ」を描いてきたライカート監督は、今回もカナダを目指して旅を続ける女性に焦点を当てています。『リバー・オブ・グラス』(1994)が、監督のいうところの「道のないロードムービー」であるとすれば、本作はしっかり旅の高揚感や解放感を味わうことができます。少なくとも序盤までは。
ウェンディとルーシーの旅はしかし、ある事情により足止めを余儀なくされます。ウェンディは何とか旅路に戻ろうとするけど…、という彼女の戸惑いと奮闘が序盤以降の物語を紡いでいきます。その果てに彼女が下した結論を描くライカート監督の視線は、これまでの作品と同様(そしてこの先の作品にも通底する)、苦い現実に直面した人に対して、決して必要以上には近づかないけど、ここにしかし見守り続ける人がいることを知っておいてほしい、という想いが伝わってくるようです。
街の何気ない風景を切り取って、驚くほど精緻な構図を作り上げるライカート監督の作図は本作でも際立っています。それこそ一つ一つ挙げればきりがないほどに。これが街一つ作ってしまうような大作映画なら驚かないんだけど、予算も限定的な独立系の制作体制でここまで撮影を制御していることに驚きです。
物語の筋を追うことはそれほど難しくなくても、結末まで観てすっきり全てが見通せるか、といえばちょっと微妙なところ(それこそがライカート作品の持ち味なんだけど)なので、その点は理解しておいたほうがいいかも。
コメントする