「残念な点が非常に多すぎる作品」アイアン・スカイ 第三帝国の逆襲 kobayandayoさんの映画レビュー(感想・評価)
残念な点が非常に多すぎる作品
2019年7月14日の深夜にTOHOシネマズ六本木ヒルズのスクリーン5にて、オールナイトの最終回を鑑賞。
“ナチスが月面の裏側に基地を作って生き残っていて、ある日、地球に侵略してくる”という仰天な話とクラウドファンディングで製作費を映画ファンから募って完成させた事が話題となり、スマッシュヒットを記録した『アイアン・スカイ』から7年が経過し、遂に続編となる本作『アイアン・スカイ-第三帝国の逆襲-』が上陸。前作を楽しんだ自分なので、期待を高めながら観に行きました。
月面ナチスの侵略後に核戦争が起き、地球が壊滅してから30年が経過した時代において、元月面ナチスの女性幹部にして、現在は月面基地で生存者を束ねているレナーテ(ユリア・ディーツェ)の娘のオビ(ララ・ロッシ)は30年前に死んだ筈のコーツフライシュ総統(ウド・キアー)から「地球の地下空洞に資源がある」と教えられ、地球に行くことを決意する。(あらすじ)
前作の『アイアン・スカイ』は個人的に2012年の劇場鑑賞作のなかで第2位の位置付けになった程、楽しみ、2014年に“ディレクターズ・カット版”がイベント上映された際も観に行き、その上映時に監督のティモ・ヴォレンソラによるメッセージ映像が流れ、そのなかで「今、続編の製作を進めています」と語っていたので、その段階で本作を楽しみにしていました。だから、公開されたのを嬉しく思い、観られた事を喜んでいます。
本作は今年の下半期の期待作の一つだったのですが、話、映像共に全く面白くありません。前作は都市伝説ネタに低予算とは思えないぐらいのスケール、社会風刺等が見事にブレンドされ、ユニークで新鮮な一作に仕上がっていたのに、本作は前作の魅力的だった部分が消え失せ、前作よりもスケールは大きくなり、映像の派手さと笑えるキャラクターが増えたのを除けば、良い点が無く、あれから7年が経過したことによるブランクを感じさせるような作りにもなっていないので、非常に残念な部分が多く、期待していた分、ガッカリが大きかったです。
前作はキャラクターが印象的でした。行動力がありながらも、おっちょこちょいな人物のレナーテ、月面に送り込まれたモデルでありながら、最終的に大活躍するジェームズ、野心家のクラウス、再選を目指す女性大統領と選対委員長のヴィヴィアンなど愛着が沸くと同時にくせ者感も半端無いところが魅力で、本作にもその点に期待してました。けれども、レナーテとジェームズの娘として登場する主人公のオビを除けば、全てが添え物に過ぎず、オビと行動を共にするサーシャ(ウラジミール・ブラコフ)とマルコム(キット・デイル)は活躍するのに空気に等しく、レナーテとコーツフライシュ総統は「前作の主人公と悪役だったので出しときました」感が強く、見た目はくせ者っぽく見えるのに、大した事が無い“ジョブズ教”の教祖のドナルド(トム・グリーン。“チャーリーズ・エンジェル”の“チャドちゃん”役が懐かしい)にしても、“ヴリル協会”のマーガレット・サッチャー、ウサマ・ビンラーディン、マーク・ザッカーバーグ等も活かせておらず、全てがオビの引き立て役にしか見えず、そのオビにしても、レナーテとジェームズの娘とは思えないぐらい何でも出来て、失敗をしないキャラになり、月面基地が長くは持たないという状況下でミスできない設定になっているのは分かりますが、多少はおっちょこちょいな部分を見せても良かったのではないかと思えます。前作は公開時の段階で『スター・ウォーズ』の製作が休止期間だったので、もし、レナーテがおっちょこちょいなキャラでは無く、今回のオビのようなキャラになっていたら、それも新鮮に感じていたのかもしれませんが、7年が経った現在は『スター・ウォーズ エピソード7/フォースの覚醒』からの“続三部作”の主人公のレイが何でも出来るキャラとして描かれていて、彼女ほどでは無いですが、それに近いキャラも他の作品に出てきているので、オビのキャラには新鮮味が感じられず、勿体無いと思います。
前作は劇場公開版よりもディレクターズ・カット版を気に入っていました。その理由は劇場公開版はテンポが良すぎて、1時間半の上映時間があっという間に感じられ、楽しいのにあっさりとしていて、この手のB級作品にありがちなダレる部分(ヨーロッパの作品なので淡々となるのは当然です)が無く、ディレクターズ・カット版は本編が長くなってるので、多少はダレる部分があり、そこが理想的でした。しかし、本作は前作の劇場公開版以上にテンポが良すぎなので、前作とは違って中身が薄い内容が、より薄く見えてしまいました。テンポが悪く、尚且つ退屈なのとは違うのは良いところですが、前作と違って印象的な部分が無いので、ただ画面を眺めていただけな気分にしかならなかったのも残念です。
前作は音楽も魅力的でした。ライバッハが手掛け、予告編とディレクターズ・カット版の劇中で流れる『b macinima』とエンディング・テーマの『Under The Iron Sky』は非常にカッコ良く、何度も聴きたくなる曲で、本作もライバッハが手掛けているので、それに匹敵する曲を期待したのですが、そういうのも無く、全てにおいてダメな一作なのが極まったように感じています。
前作公開時は都市伝説に強く興味を持っていた時代で、当時は『イングロリアス・バスターズ』の影響でナチスに関するネタ、それに『トランスフォーマー ダーク・オブ・ザ・ムーン』を観たあとからは月面に関するネタに惹かれ、「何で月面着陸を行わないんだろう?」と疑問に持っていた時に公開され、観賞後は「本作のように月面にナチスが居たら?」と思ったり、興味深さを強めた作品でもあり、同時に『イルザ ナチ女親衛隊』等のナチスのトンデモな設定を持った作品を数多く観るようになるキッカケにもなったので、色々な面で愛着のある作品でした。しかし、本作のレプティリアンのネタは興味を持てず、同時に都市伝説への興味も薄れているので、楽しめなかったのも当然だったのかもしれません。
現在、ヴォレンソラ監督が製作している第3弾には惹かれるようなネタがあることを願っています。