合衆国最後の日のレビュー・感想・評価
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政治不信
ベトナム帰還兵で元空軍将校がミサイル基地を乗っ取り、政府にベトナム開戦の真実、機密文書の開示を迫る政治スリラー。冒頭に「この映画はフィクションです」とクレジット、こんなリアリティの無い設定では誰も実話なんて思わないでしょう。
原題のTwilight's Last Gleaming(黄昏の最後の輝き)はアメリカ国歌の一説だが邦題は意味不明、実際に第3次大戦でも勃発していたら別だがね、機密開示を決めた大統領が殺されることで民主主義国家、アメリカの終焉と言いたかったのでしょうかね。
原作のViper Three(3人の毒蛇)はまだ戦争中の1971年出版だそうだから、センセーショナルであったろう。確かにトンキン湾事件は米国の捏造だったと後に分かったが、機密とは参戦を決めた議会議事録でしたね。
それにしても核ミサイル基地をいとも簡単に乗っ取るとはリアリティに欠け過ぎ、テロリストの要求に応じるかどうかの政府内の葛藤の様子をダラダラと追うだけ、確かに最後の顛末は衝撃的、まるで口封じの暗殺でしょう。JFKの暗殺事件も引っ掛けていたのでしょうかね。確かに政府への国民の不信感が作ったような映画でした。
公開当時はもっと衝撃的な作品だったろうと思う。
1955年(昭和30年)から始まり1975年(昭和50年)まで、20年にもわたってアメリカが介入したベトナム戦争は、東西冷戦という国際政治情勢下にあって、西側資本主義国家の盟主を自認するアメリカ合衆国にとって、メンツにかけても負けることのできない、その意味では「国の威信かけた一戦」であり、ベトナムから共産主義勢力を一掃して西側陣営としての「意地」を共産主義諸国の盟主であった、当時のソビエトに見せつける…はずだったのですけれども。
しかし、蓋(ふた)を開けてみれば、「サイゴン陥落」で西側陣営は完敗、アメリカが膨大な戦費をつぎ込んで開発した高性能戦闘ヘリも、撤退に当たってはまったく使い道がなく、復員兵を収容するスペースを確保するため、みんなで押して搭載艦の甲板から海に投棄したとも聞き及びます。
資本主義国の盟主を自認していた当時のアメリカは、貧弱な兵装のベトコンごときに負ける道理がないと、高をくくっていたという背景があるそうです。優秀・最新鋭のアメリカ軍の兵装も、実際には、ジャングルに土着して戦うベトナム兵のゲリラ戦法には、その威力を十二分には発揮できなかったということなのでしょう。
(その間の事情は、ビューリッツアー賞受賞作家であるデイビッド・ハルバースタムの著書「覇者の驕り」に詳しいと承知しています。また、この戦争でアメリカ市民が受けた痛手の深さについては、別作品『ディア・ハンター』『タクシ・ドライバーー』などにも描かれているところです。)
ベトナム軍のゲリラ戦法にいらだったアメリカ軍は、ジャングル全体に枯れ葉剤を散布してゲリラ兵をあぶり出すという作戦に出ましたけれども。
その結果、その薬害で、いわゆる「ベトちゃん、ドクちゃん」という障害児の悲劇を産み出してしまったことも、また、争うことのできない事実です。
それゆえ、敗戦をなんとか避けようと、戦争の終わり頃は、戦地でもアメリカ国内でも種々の「政治的・軍事的な調整」が行われたことでしょうし、その過程では、とても国民に公表することができないような「裏工作」も(失敗に終わったとはいえ)種々行われたことは、想像に難くありません。
そういうベトナム戦争の「陰の部分」を描こうとするかのような本作は、いわゆる政治サスペンスものとしては、けっして出来の悪い作品でなかったとも思います。評論子的には。
しかし、本作の公開(ベトナム戦争の終戦間近い1977年)の当時はともかく、その後は、東西冷戦の融和(いわゆる米ソのデタント)が進み、共産主義諸国の盟主とされてい
たソ連邦が崩壊し、「共産主義の壮大な社会実験は失敗に終わった」と評される令和の今となってみれば、本作の位置づけは、「東西冷戦下では、こうだった」という歴史的道標としてほどの意味合いに後退してしまったような感を、評論子は、どうしても払拭できないでいました。
その意味では、公開時は、もっともっと、ずっとずっと「衝撃作」であったことは、間違いがなかろうとも思いますけれども。
それでも、あくまでも主観的な印象に過ぎない上記の点を計算から除くとすると、まずまずの佳作であったと評価すべきと、評論子は思います。
TVドラマ「24」の原形はこれ
カウントダウンの中、分割画面ののそれぞれが同時進行する
誰もが観たことがあるはずだ
そう、24の緊迫感はこの作品の映像を大いに参考にしている
元ネタと言っていいだろう
大統領、政府や軍の幹部が現場と直接連絡をとりつつ物事が進行する
警備カメラの画像を通して状況を説明する
これらも同じ構造だ
つまりそれほど密度高く緊迫感がある面白い作品ということだ
特にゴールド作戦のシーンは息を飲む素晴らしいシーンだ
邦題の「合衆国最後の日」の意味はラストシーンで明らかになる
大統領の描き方が秀逸
21世紀に実際に出現する大統領を予言していたかのようですらある
これも見どころ
ソ連との全面核戦争を避ける為の制限戦争の話がでるが、状況は21世紀になっても変わりはしない
相手が中国になって繰り返されようとしているのだ
その意味で本作は今日的な意味をまた持ち始めているのだ
原題のTwilight's Last Gleamingはアメリカ合衆国国歌「星条旗」の一節
たそがれ時の最後のきらめきという意味はラストシーンにかかるものだろう
また冒頭とエンドロールにかかる曲は黒人人気歌手ビリー・プレストンの「My Country, 'Tis of Thee」
これは別名「America」と呼ばれアメリカ合衆国の愛国歌の一つで、「星条旗」が採用されるまでは、事実上のアメリカ国歌だった
アメリカの理想はこのような暗黒面を秘めているのだという皮肉のつもりでのタイトルであり挿入歌なのは明白だ
本作はそのような製作意図だったのかもしれない
そのような政治的見方は当時の思想的な流行でもあった
しかし、制限戦争の考え方が本当に冷戦を核戦争に至ることなく勝利した現実
そして911を体験し、テロ戦争を経て、そして今中国と北朝鮮の脅威に直面している21世紀の現代に於いてはどうだろう
それでもアメリカの理想を未来に生存させるためなら、それも必要なことかもしれないと思える時代に変貌してしまったのだ
されに言えば今は無人機がモニター画面越しに戦い米国の兵士を殺さない戦いをする時代になってしまった
40年という時間は、世界を取り巻く現実をそれほど当時と変えてしまったのだ
緊迫感はあるが詰めが甘い脚本
画面分割を活かした中盤までのスリルは買うが、ポリティカルサスペンス物の脚本としては粗さが目立つ。
(ネタバレ注意↓)
機密文書の公開を何故逃亡後にしろと要求するの?
普通はそっちが先でしょ?
軍が作戦のカモフラージュに使った乗り捨てられた装甲車にしても、当然二重三重の作戦を仕掛けてくる事を犯人だって想定してそこから退かせるくらい考えるでしょ?
そもそも機密文書の内容だって、どす黒い政治(まつり)の世界の中核にいる合衆国大統領が今更怒りまくる内容とも思えない。
ベトナムの遥か前の広島長崎への原爆投下の理由だってソ連への牽制目的なんて、もう分かりきった事なんだから。
(戦争を終わらせる為何て薄ら寒い建て前を信じてる人もいるらしいが)
骨太だが基本的には職人監督のアルドリッチが一応付け焼刃的に反戦反核をテーマにした大味な娯楽映画な印象。
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