「友人・家族、そして愛犬とのお別れを考える"終活ムービー"」しあわせな人生の選択 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
友人・家族、そして愛犬とのお別れを考える"終活ムービー"
進行性の末期ガンに侵された主人公の、家族・友人との関係性を切り取ったドラマで、いわゆる"終活モノ"。末期ガンに侵されたスペインに住む主人公のもとに、余命わずかであると聞いた古い友人が、遠くカナダからはるばるやってくる。滞在期間は4日間だったが、期せずして"終活"に付き合うことになる。
ヨーロッパでは、昨年、ドイツ映画「君がくれたグッドライフ」(2016)やフランス映画「92歳のパリジェンヌ」(2016)など"安楽死"テーマの作品があったが、本作も主人公が自らターミナルケアの選択をしている。
本作がいわゆる"終活モノ"と違うのは、登場人物がラテン系だからなのか、全体のトーンが"明るい"。また主人公は女性や青年ではなくオッサン。設定や会話もウィットに富んでいて、泣き落とし系ではない。理性的に死と向き合っているがゆえに、逆にじわりと心に迫るものがある。
原題の"Truman"は、映画に登場する老犬の名前である。主人公の"終活"において、残された愛犬の生活や心のケアがいちばんの気がかり。"犬にも喪失感はあるのか"とか、"新しい飼い主との生活環境"など、悩みは尽きない。実際にそれなりの老犬を使っていて、長年の相棒であったことを感じさせる。
日本においても"犬は家族"という常識くらいはあるが、ヨーロッパではさらに"犬は社会の一員"というレベルまで社会的意識が浸透している。
犬とホテルに泊まれるのは当たり前だし、犬にも税金が課されるドイツ、飼育には年収証明が必要だとか、さらに犬を屋外で飼っていると虐待と見なされる地域もある。だから本作が特徴的なのは、"家族・友人との別れ"と、"愛犬(ペット)との別れ"が、同じ目線で扱われていること。劇中シーンでは、ホテルや、レストラン、空港、公共交通での犬帯同の自由さ、公園でのリードなし(ちゃんと教育されている場合のみ)等を、垣間見ることができる。
"犬"と"飼い主"のお別れがすべてを象徴している作品であり、残された犬が、生前の主人公の想いを引き継ぐ存在として描かれている。
(217/7/11 /ヒューマントラストシネマ有楽町/ビスタ/字幕:赤坂純子)