「『指原の乱』の構想が実現?」DESTINY 鎌倉ものがたり 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
『指原の乱』の構想が実現?
観ていて思った。ああ、山崎貴の作品だなぁ〜、と。
決してつまらなくない。しかし、同時に物凄く面白いわけではなく2回観たいとは思わない。
作家性が強いせいで好き嫌いがはっきりわかれるわけでもなければ、実験を試みて大失敗することもなく、かといって膝を乗り出してのめり込んで観るような作品を創るわけでもない。
点数をつけるなら常に60点から70点の作品。
ある意味偉大と言えば偉大なアベレージヒッター型の監督だとつくづく思う。
本当はホームランを打てるのに、空振りしないため敢えて狙いにいかないのかもしれない。
とはいえ監督作品が上映されるたびに何となく観に行ってしまう。
そして映画館で適度に楽しんで以後はBlu-rayやDVDを購入して見返すこともないので時間が経てば内容は殆どうろおぼえになってしまう。
さすがに柳の下の3匹目のどじょうはしつこく感じたので3作目を観ることはなかったが『ALWAYS 三丁目の夕日』の2作品、『SPACE BATTLESHIPヤマト』『永遠の0』『STAND BY ME ドラえもん』『寄生獣』2部作、『海賊と呼ばれた男』と、筆者も今まで8つも山崎の監督作品を観ている。
ただ百田尚樹の原作小説である『永遠の0』を映画化し大ヒットさせたことで、左寄りな日本映画界の中にあって世間的に右寄りと思われる作品の映画化に風穴を開けた功績は大きい。
『海賊と呼ばれた男』も愛国的傾向の強い作品であり、『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズや本作も肯定的に日本を捉えるという意味においては同じなのかもしれない。
また初期作品の『ジュブナイル』と『リターナー』以外は監督作のほぼ全てに原作が存在し、山崎が脚本を兼ねることも多く、長い原作の中から面白いエピソードを抜き出したり、そのエピソードをふくらませたりして1本の映画にまとめる才能に長けているように思う。
しかし山崎の監督作品には苦手な点が2つある。
まず映画が全体的に長い。本作も含めて殆どの作品が2時間を超える。どうにも我慢ができなくなって『永遠の0』ではゼロ戦の空戦シーンでトイレに立ってしまった。
もう1点は感情を誘発するための音楽が常に過剰なところである。
特に『ALWAYS 三丁目の夕日』で顕著だが、感動させたいシーンではこれでもかと言わんばかりに扇情的な音楽が大音量で流れいささか疲れる。
本作は『ALWAYS 三丁目の夕日』と同じく西岸良平の漫画『鎌倉物語』を原作としている。
そして今までにも増して出演俳優が豪華である。
個人的には福田雄一監督作品の常連であるムロツヨシが出演しているのが興味深かった。
ムロは山崎から「今までのムロツヨシにない一面を出せるような役柄をやってもらいたい」と言われたらしいが、それは福田作品で見せるおちゃらけた演技をするな!と釘を刺されたに等しい。
たしかに今回は一切笑いを取る演技をせず終始真面目な演技をしている。それにもかかわらず、うわっ、メレブが真面目な演技をしてやがる!と思ってしまって出演場面では終始ニヤニヤしてしまった。
また山崎作品は主役選びに失敗しないと常々感じているが、本作の堺雅人と高畑充希の主演コンビの組み合わせもなかなか良かったと思う。
話は全然変わるが、高畑には忙しい時間の合間を縫って福田雄一と是非『女子ーズ2』を創り上げて欲しい。
ただなぁ、高畑も有村架純も超売れっ子になってしまったから、あんな役は二度とやらなさそうなんだよなぁ〜。
前述したように山崎作品は特別良いところも悪いところも見つけるのが難しい。
ただ本作では、江ノ電のタンコロが黄泉の国へ向かうシーンから黄泉の国の建物の描写までが『千と千尋の神隠し』を想起させてしまうところが独創性を感じさせない。
また全編を通じてCGがまだまだCG然としている。
同じ時期に観た『鋼の錬金術師』に内容や配役では格段に優っていても、本来山崎が売りとするはずのCGの完成度において完全に敗北している。
2013年に放映されていたテレビ東京の番組に『指原の乱』というバラエティ番組がある。
演出は福田雄一で、HKT48の指原莉乃と福田が実際に各業界関係者のもとを訪れて指原の勝手なお願いを聞いてもらうという趣旨の番組である。
「黒指原」と化した指原が業界の裏事情に切り込んで自分の欲望を遂げようとするのだが、積極的にお金の話をし、というよりほぼお金の話しかせず、福田をはじめとする周りにことあるごとに文句ばかり垂れるアイドルの姿は笑撃である。
当時はテレビ東京で深夜2時以降の放送だったために視聴率はわずか0.1%だったらしい。
指原のHKT48を世間に広めるために映画を創りたいというとても雑な思い付きから、福田と2人で山崎のところへ足を運ぶ回がある。
指原が山崎を「ザキヤマさん!」と呼ぶ第一声とともに、当時流行っていた「半沢直樹」の人気にあやかりたい下心が見え見えで堺を主演に迎えてCGをふんだんに使った作品を山崎に監督してくれないかとお願いする。
その際、山崎は絶対に堺が主演で先生と生徒などの年の離れた恋愛ものなら鉄板で受けるから自分が出資してでも監督すると発言している。
ん?本作は『指原の乱』の構想そのままに見えるが…気のせいかな?
なお言うまでもなく指原の映画を創る構想はポシャった。