「音楽の破壊力」サラバ静寂 Raspberryさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽の破壊力
音楽でも何でも、芸術は破壊的な役割を果たし、日常化した意識を刺激し、既成概念を捨てて、割れ目を生じさせるものだ。現実への異議申し立て、否定から始まる。
そして、芸術を愛することは、その本質に迫ることだ。ロゴス(知性)よりエロス(愛情)という意味では、斎藤工が良いメタファーだったと思う。
ミズトがひとりでやるシーンで、虚無しかない現実がよく伝わるし、レザボア的拷問シーンも、耳を奪われることで、聴きたいのに聞けない苦痛と社会的背景を感じる。
そして、偶然と模倣と興奮と目眩をもって、音楽に出会った二人。実に生命的な感動である。
ところが最後まで、主人公もサノバノイズの大人たちも、打開不能な状況にすっかり埋没してしまっている。
NOを言うことからこそ新しいパラダイムが開けるのに、現実の否定、ビッグブラザーに対してNOを叩き付ける、といった破壊の視点がなかった。
抑圧されている者が、その状況を変えられない、または無力であると思い込むことは、抑圧する者にとっては大変都合が良い。
いくら夢を描いても、大きな声で泣き叫んでも、システムの中でネジたちが騒いでるに過ぎない。
ヘビメタスピリッツを受け継いだ子どもたちに、音楽の本当の破壊力を伝えて欲しかった。
全体的に、監督の音楽の趣味は堪能したが、音楽(芸術、遊戯)の本質の思索がよくわからなかった。
コメントする