「清水富美加の置き土産。松井玲奈と作り出す唯一無二の空気感」笑う招き猫 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
清水富美加の置き土産。松井玲奈と作り出す唯一無二の空気感
清水富美加の"置き土産"は、意外なほど佳作である。先月公開の「暗黒女子」(2017)よりも、こっちを見ないのは、もったいない。監督・脚本は「荒川アンダー ザ ブリッジ」(2012)の飯塚健。本作はキャスティングの勝利だ。
山本幸久原作の同名小説を、清水富美加と松井玲奈のW主演で映画化。結成5年目の売れない女漫才師"アカコとヒトミ"を演じる。この漫才師っぷりが見事。クライマックスでは、何の違和感もなく、そのネタ見せに引き込まれてしまう。
清水は、「暗黒女子」よりも吹っ切れている。女子高生やその延長の役柄ばかりだった彼女は、本作ではじつに自然体である。もしかしたら性格俳優としての可能性があったかもしれないと考えると、第一線を退いてしまうのは実に惜しい。
役作りなのか、学生時代の回想シーンを除いて、ふくよかだ(こっちの方が好み)。若干二重あごぎみで、顔もまんまる。すでに本人に聞けないので真相は分からない。
事件がなければ、本作は明らかに元SKE48の松井玲奈主演としてクローズアップされただけだろう。しかし舞台挨拶をはじめ、映画のプロモーションは松井オンリーにも関わらず、清水富美加の見えない存在感は相当なものである。
しかし、2人揃って漫才コンビである。その間合いは、松井玲奈の弾けた演技によるところが大きい。2人の作り出す空気感に感心しきり。女同士の喧嘩シーンが多く、容赦ない"口撃"は台本か、アドリブか見分けがつかない。その本気さゆえに、"女の友情"というテーマにコントラストを利かせている。
本作に先行して深夜ドラマ枠で、テレビ版スピンオフ・エピソードがあった。こちらは、"amazonプライムビデオ"で見られる。内容はたわいのないネタ動画なので、映画本編で、"高城瞳"と"本田明香子"を愛せるようになってから、観るのがいい。松井玲奈と清水富美加が、プロのオンナ芸人より悲惨な姿態を披露している。演技を枠を超えたリアクション芸である。
(2017/4/30 /新宿武蔵野館/シネスコ)