「このレベルの過激さには必ず上がある!」フィフティ・シェイズ・ダーカー 曽羅密さんの映画レビュー(感想・評価)
このレベルの過激さには必ず上がある!
前作『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』の続編である。
前作はサム・テイラー=ジョンソンという女性監督だったが、本作ではジェームズ・フォーリーという男性監督に変更されている。
サムは、再婚した2番目の夫が20歳以上年下のアーロン・テイラー=ジョンソン、『キック・アス』(最高に面白い!)のタイトルロールを演じた役者で、43歳で第3子、45歳で第4子を出産、おまけに乳がんと大腸がんを克服したという、かなりの強者らしい。
筆者はジェームズ・フォーリーが関わった作品は『ツイン・ピークス』しか観たことがないし具体的にどこに関わっていたのかも知らない。
ただ言えることは、こんな凄まじい人生経験を持つサムの方に続編も監督して欲しかった。
とは言え前作を観ているものの細かいところまで覚えているわけではないのだが…
どうも前作で原作者のE.L.ジョーンズが撮影現場でセックスシーンに口を出し過ぎてサムと不仲になったらしい。
サムとともに脚本を担当したケリー・マーセルも揃って降板、ヒロイン役のダコタ・ジョンソンが撮影当初に困惑するぐらい制作スタッフが総入れ替えになったとのことである。
さて本作の脚本はナイアル・レオナルドという人物だが、なんと原作者E.L.ジョーンズの夫である。
原作者が映画に深く関わっても良い作品が生まれるとは限らない。
昨今は原作レイプという問題もあるが、全く違うものであっても良い作品はある。
『ソラリスの陽のもとに』を全く改変してほぼ別作品の『惑星ソラリス』を監督してしまったアンドレイ・タルコフスキーは原作者のスタニスワフ・レムから激怒されたが気にしなかった。
確かに別の作品ではあるが、両作品を手にとった筆者としてはともに素晴らしいとしか言いようがないし、確かに違う作品ではあるが両作品に通底するものも感じる。
第3作の『フィフティ・シェイズ・フリード』も既に撮り終え、来年の上映を計画している模様でエンドロールの合間に予告が流れる。
主役のジョンソンが前作からたった2年でいやに老けた印象を受けたのでこの選択は正しいと思う。
彼女の母はメラニー・グリフィス、父はドン・ジョンソン、ともに俳優であり、筆者も20年以上前に彼らの作品を観たものだ。
ジョンソンは前作を絶対に両親に見せないと公言していたようだが、その覚悟のなさが本作の演技にも表れていたように思える。
性に大胆な役のはずなのになにか吹っ切れない恥じらいのようなものをラブシーンのたびに感じた。
これは相手役のグレイを演じるジェイミー・ドーナンにも同様である。
作品の中で性をどう扱うかの問題はたしかに難しい。
過去に日本では大島渚が監督作品の『愛のコリーダ』において本番行為をさせている。強烈である。
スタッフからもキャストからも覚悟しか感じない。
2003年のヴィンセント・ギャロの監督作品『ブラウン・バニー』では厳しい映倫のおかげで相当大きなモザイクに覆われながらも大画面でオーラルセックスを見せつけられた。
内容を知らずに女友達と観に行ったために絶句の挙げ句、相当気まずい雰囲気になった。良い想い出である…
去年観た『LOVE 3D』では、延々と繰り広げられる接写込みの本番シーンを、またもやありがたい映倫のおかげで、大きなモザイクがあるとはいえ今度は大画面でしかも3Dで見せつけられる不条理さを体験した。
さすがに学習して『LOVE』は1人で観たが…
上記3作品に比べてしまえば本作の過激さなど屁みたいなものである。
そこで役者の覚悟も感じられないのだからなんだか笑ってしまう。
最近の日本でも先日寺島しのぶが主演した『裏切りの街』で濡れ場を演じていたが、夫もいてましてや小さい男の子もいる40代中盤の女性の演技とは思えなかった。
堂々としていてむしろこの手の役柄を得意とする共演の池松壮亮の方がオドオドして呑まれていた。
過激ではないが覚悟を感じた。
ただし別に過激だからいいとは全く思わない。
『LOVE』は過激さに目が行きがちだが、主人公たちの内面もしっかり掘り下げられていた。
むしろどうせ過激な性描写と言っても比べてしまえば大したことないのだから、もっと登場人物の内面的掘り下げに時間を割いた方が良かったのではないかと思う。
読んでいないので知りようがないが原作ではもう少し過激なのだろうかむしろ美しいのだろうか原作ファンは本作にどこまで納得しているのか知りたいところだ。
本作は恋愛作品であるが、男女の超えるべき障壁が多少の階級差に加えて相手の男性の性行為のアブノーマルさというのは新たな設定で面白い。
ただそのアブノーマルさも幼少時のトラウマに起因しているのはフロイト的な環境心理学に支配されていて陳腐だ。
グレイの15分で24000ドルを稼ぐセレブぶりは一見万能な設定のように映るが、単に原作者がお金の苦労から来る煩雑さを放棄しただけのようにも思える。
シリーズ全3作品の原作小説は全世界で1億部以上売り上げているらしいが、映画を観ている限りでは全く原作を読みたいとは思わない。
ただし、グレイの部屋の豪華さは別天地で、広々した部屋や高価な調度品の数々、性玩具に至っても卑猥さではなく高貴な雰囲気すら感じさせる。
さすがはハリウッド!お金の掛け方が違う。ここだけは世界のどこも敵わない!