「これぞアニメーションの真髄」夜明け告げるルーのうた uhoxtueboyさんの映画レビュー(感想・評価)
これぞアニメーションの真髄
終映間近にやっと地元にやってきてくれて
ようやく鑑賞
正直言って、全く期待していなかったが…
湯浅政明監督、恐れ入りました。
★5つでは全く足りない。
日本アニメ史上屈指の大傑作です。
あちこちに小ネタや小気味良いギャグがテンポ良く入ってるだけでなく、決定的に面白い。
アニメ映画は、「ただキャラクターが動いていて楽しめる」というのが究極なのであれば
この映画はそのアニメの基本たる動きが最高に楽しめる作品。
冒頭、マイクを叩いて始まるファーストシーンから
音楽一つ一つが何とも心地よく響く
ルーが登場してからは「歌うたいのバラッド」が必然的に多く使われてるのだけど
場面場面でアレンジを上手に変えてあり、これがまた絶妙にマッチする。
主人公のカイも、最初の数分はまったく表情が読み取れない、とても影ある少年として描かれてるのが、タイトルの出る場面で人魚を見つけて、奇妙な機械的な動きを見せた後に次第に打ち解けていくと、色々な表情を見せてくれる。
ルーとセイレーンの初セッションは、もし自分があの場にいられたなら、絶対に一緒にバンドをやってみたくなるほど、見ていて楽しくなる。
あの不思議な歌声で音楽合わせたら面白いだろうなー、こいつらホント楽しそうな顔してるなーって。
主人公の相棒的役割を果たす国夫、とにかく感情動きが激しい遊歩と、脇のキャラクターもなかなか面白い連中。国夫も10代なのにもう髪の毛の心配してたりする割には、「ライブしたい」とだだこねる遊歩に「わかった」なんて根拠もなく頼もしく言っちゃうイイ奴。一緒にいたら絶対友達になりたい。
ルーとカイの深夜デートもそれぞれの夜景が一つ一つ丁寧で、どれも初めて観る人魚の子には珍しさでいっぱいで「すき」ばっかなのも当然。ワン魚を誕生させて夜明けと共にバッシャーンと海に帰って行くというのもなかなか斬新。
一部で古典的名画のパロディも出てくるが、このシーン、とにかくルーが愛おしく愛おしく感じますよ。
セイレーンのデビューライブにおける、ルーが巻き起こす日無町全体を巻き込んだダンスシーンは、どこかカートゥーンを思わせる懐かしさを感じる絵柄で
とんでもなく早い足裁きとハイテンポなリズムを刻む音楽に合わせてアニメ映画史上最高のダンスシーン魅せてくれる。
もっと見せて、音楽止めないでーとなること請け合い無し。
しかし、ルーとの最高の夏休みは、このあたりまで。
以後ストーリーは深化していく。
街中がルー、人魚の存在を知ってしまってからは、大人たちの汚い汚い部分が沢山描かれる。
それを商売にしようとする者、拒絶反応する者、はたまた殺そうとする者すらいます。
最初は人魚に好意的だったオバサマ方もすぐに掌返してきます。
どこか、現代の人間社会の縮図のようにも思えますね。
そして、よくよく考えれば、その“大人たちの身勝手”が引き起こした事件である遊歩の家出でストーリーは大きく動きます。
人魚がよくカイの家に現れることを知っていた大人たちは遊歩誘拐犯としてルーを監禁してしまいます。
さらに、大人の身勝手さは、ルーを犯人と決め付けて彼女を殺そうとしたことでついには海の神様の祟りを引き寄せてしまいます。
そこでようやく一部分の大人たちは、子供たちの正しさや純粋な想いを認めてくれます。
そんな目に遭っても、ルーは健気に日無町の人々を救おうと親子で奮闘。
遊歩や国夫たちの援護も虚しく、もう頼みの綱の人魚たちがダウン寸前となったときに
「嗚呼歌うことは難しいことじゃない~」というヘタクソな歌声が街中に響き渡る。
しかし、この歌声はルーが誰よりも大切に想う大好きなカイの声。それまでのどんな力よりも強いフルパワーで、彼らは主人公たちの町に立ちはだかる大きな壁を文字通りぶち破るのです。
最後の最後にこの歌は“短いある一言”で終わりますが、その後の人魚たちとのシーンを予見させていますね。
ヘタクソな歌でありながら、このシーンは上手に歌われては却ってリアリティを削いでしまうので、本当にカイの心の叫びが歌となったように聴こえるでしょう。
ラストは日の当たる町になった日無町と主人公たちの明るい未来を示唆して終わる、爽やかな結末。
脚本は確かに、すこし鋭いヒトなら粗方結末は見えてしまうし、ウクレレに釣り糸張ってマトモな音が出るとは思えないのだけど
それを全部ひっくり返してしまう圧倒的な演出美。
Blu-rayは早くも10月には出てしまうが、かかってる劇場があれば、この映画関しては絶対に観て損はない。
だって最高のアニメ映画で、最高の音楽映画でもあるのだから。