「ハートフルではないような」ありがとう、トニ・エルドマン sonarさんの映画レビュー(感想・評価)
ハートフルではないような
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噛み合わない父娘。着ぐるみを着た顔の見えない父と裸になった娘はその刹那だけ心を通わせ、抱き合い、子供のように名残惜しそうに別れる。
イネスは恋人にも友達にも優しくない。そして心を開いてくれた上司や部下とも結局のところ打ち解けない。
現状を脱ぎ捨てはするけれど、結局別のコンサル会社に移るだけで本質的には何も変わらない。
終盤、父の前で入れ歯を入れておどけてみせるが、暫くして外し、真顔になる。その真顔がラストショット。
祖母の死に「会いにくればよかった」とつぶやくが、会いに来れたでしょう?きっと父が死んだときにも同じことをつぶやく。そして父の言葉を思い出す。「義務に追われているうちに人生は終わってしまう」
お客様第一で、家族と過ごす時間も恋人とのセックスも大事にしない人生。チーズを削る暇もない生活。イネスは食べ物を食べない。唯一食べるのがあのケーキ!
前半の仕事にもがいている姿は痛々しくて何度も抱きしめてあげたくなった。
アメリカ映画なら父のおかげで人生を取り戻しハッピーになるんだろうけど、ずいぶんと苦いラストだ。
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