「夢幻の愛は無限」愛を綴る女 天秤座ルネッサンスさんの映画レビュー(感想・評価)
夢幻の愛は無限
愛することにも愛されることにも全力を尽くす女。しかしそれは「愛」というよりも「情欲」といった方が近いかもしれないと思う。激しい程に愛を求めて情熱的なまでに愛されることを望んでいるような。結婚前にあった教師への一方的な愛の押しつけも、ヒロインの性愛への激しさを感じさせる一幕だった。そんな女性が、愛のない結婚をし、闘病先の施設で本当の愛と出会う・・・なんて書き方をすれば、不倫の物語だとかメロドラマなどとカテゴライズしそうになる。しかし、この映画は最後の最後に本当の愛を描く。愛のない結婚をした夫が最後に明かす真実こそが、愛であることを指し示す。それが分かった瞬間、この映画のすべてのフラストレーションが解放されて消えてなくなった。そして最後に残ったのは夫の愛の奥深さで、全てを知った上で妻の「愛」の炎を決して吹き消さなかったその姿に、とても胸を打たれた。
妻の愛はただの夢幻だった。確かにすべてをなげうって逃げ出したいほどの愛だったし、見えないものを見てしまうほどに思い詰めた愛だったのも疑いようのない愛だと思う。その後17年間秘め続け忘れられずに思い続けた愛も、もちろん真実の愛だったんだと思う。けれども、その背後で別の男を17年胸に抱きかかえながら、それでも17年間見て見ぬふりを続けた夫の愛の深さとでは、もはや比較にはならなかった。この映画を観た後で、愛とは何か?と問われたら、間違いなく夫の妻に対する深い情愛こそがそれだと答えるだろうと思う。夢幻の愛は、それが幻であるがゆえに壊れることなく永遠に続けることが出来る。けれども現実の愛に永遠などは不可能で、忍耐と努力なくしては在り得ない。だからこそ、17年間、自分以外を思う妻を愛し続けた夫の姿に、深く感動させられた。
そしてそういった一組の夫婦間の対立するような愛の形を描くのに、見事に巧みな物語の構成になっていて、真実がじわりじわりと静かに紐解かれていく様子がとても心地よかった。マリオン・コティヤール演じるヒロインの不倫の恋が主題のラブストーリーならそれは凡庸なメロドラマだっただろうが、この映画はその先になる真の愛を提示して見せ切ったところに好感を抱いたし、至上の愛を描いた秀作に感動した。
この映画のヒロインは、間違った行いを多々繰り返すし、激しさと狂気を持った難しい人物だ。それを演じるのは簡単なことではないし、まして彼女に共感や好意を見出させるのは至難の業かもしれない。ともすれば「身勝手な女」に見えてもおかしくない女性だからだ。しかしマリオン・コティヤールはちゃんと彼女の心情を深いところで理解して、彼女がどういう心の動きで次の行動に映るのかが手に取るように伝わってくる。だから、決して共感できそうもないことでも、彼女の気持ちが痛いほどに分かる。巧い女優って、こういう演技をする人のことを言うんだよなと改めて思わされた。