ヒトラーへの285枚の葉書のレビュー・感想・評価
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ベルリン市民もまた軟禁被害者だった、当時の目線が見えてくる
誤解を恐れずに言えば、ベルリンを舞台にした「この世界の片隅に」(2016)でもある。というのも数多くの反ナチス映画は、その犯罪性・残虐性などのインパクトにフォーカスされているので、ドイツ人の労働者階級の生活や感覚は見えにくい。それに対して本作は、市井(しせい)の人の目線で見た本音が描かれている。 ベルリン市民もまたナチスに軟禁された被害者だったという映画である。 主人公オットーとその妻アンナのもとに、息子ハンスが戦死したという通達が届く。悲しみの中で、ある日、オットーはヒトラー批判のポストカードを手書きで作り、ひそかに街中に置く。そしてその枚数は増え続け、ゲシュタポの捜査がはじまる。 原作小説「ベルリンに一人死す」は、ドイツ人作家ハンス・ファラダの作品で、第二次世界大戦終戦直後の1947年に発刊されている。当時のセンセーショナルな反応は、戦後初の"反ナチス小説"だったのと、ゲシュタポの公式記録をもとに書かれた実話ベースだったから。 この映画、終始、違和感を感じてしまう。それはセリフが全編、英語だから。そのミスマッチがリアリティを欠いてしまっている。これなら日本語吹替でも変わらない(笑)。 これにはワケがあって、この有名な原作はなんどもドイツ国内で映像化されているため、"いまさら"なのである。本格的な映画化であるにも関わらず、スポンサーが集まらず、結果的に2009年に小説が発刊された英語圏から火が付いたという格好。日本語翻訳版も2014年にようやく発売されている。 ともかく実話なので、初見であれば新鮮に感じることは間違いない。 (2017/7/18 /ヒューマントラストシネマ有楽町/シネスコ/字幕:吉川美奈子)
ハラハラした!
ドイツでは生徒は質問に答えるとき、手を上げてはいけないと聞きました。ヒトラー政権を想起させるからだそうです。 日本の戦時中は天皇万歳、自分の息子が戦死しても、お国のために頑張ったと礼賛されたものですが、本当はこの夫婦の気持ちが一番正しいはず。国のために命を捧げるなんて、やっぱり理不尽でしょう。 最後の最後までハラハラした展開でしたが、あの映画をイギリス人に英語で演じさせたのは、確かに複雑に思いました。でも英語なら大体理解できるから、役者の表情にも集中できたし、日本語で表しにくい行間のニュアンスも掴めたのはよかったです。 それにしても、戦争というのは愚かなものだと、終戦記念日の前に改めて実感しました。
観てよかった
1940年6月、ベルリンで暮らす労働者階級の夫婦オットーとアンナのもとに、最愛の息子ハンスが戦死したとの報せが届く。夫婦で悲しみに暮れていたある日、オットーはヒトラーに対する批判を綴ったポストカードを、密かに街中に置く。ささやかな活動を続けることで魂が解放されていく2人だったが、やがてゲシュタポの捜査の手が迫る。自分の工場でうっかり手紙を落としてしまい逮捕される。285通のうち届け出られたのは267通で18通は行方不明、267通すべてを読んだゲシュタポの捜査官はすべてを窓の外に投げ捨てて自殺してしまう。
正義を貫き通す勇気と孤独
第二次大戦中のドイツで、ナチスの体制を批判し続けた夫妻の実話 今の日本のような平和で自由な国で生きていても 「それは間違っています」 と言うことは、とても勇気を要することなのに、それをナチスの監視下で行った夫妻の思いの強さがよくわかる 英題は「ALONE IN BERLIN」(ベルリンでの孤独)というタイトルだったけど 同じアパートに住んでいた判事さんや、彼らを逮捕した刑事さんなど 密かに彼らの思いに共感していた人たちはいたはずで カードに込められた正義は、人々の心の中に浸透していたと信じたい
映画館で観よう!
ああこういう時代だったんだなあとリアルに伝わって来た。ほんの75年前のドイツが。 表現の自由がないのはなんと息苦しいことか。 言いたいことを言えないことがなんと圧迫感があることか。 今の当たり前の価値観を守りたいなと思えた。
ナチスに逆らった夫婦の物語
絶大な権力を誇っていたナチスにハガキで抗議するドイツ人労働者夫婦の話し。これは実話だそうで、当然ですが当時の全てのドイツ人がヒトラーを支持していたわけではないことが分かる。ドイツの話しなのに、会話が英語だったのに少し違和感があった。
原題『ALONE IN BERLIN』も充分よかった。
えっ?これ、本当にあった話だったの。 そういう史実が、敗戦国にちゃんと残っていることに価値あり。 なぜか足を運んでしまう、ナチス政権時代のストーリーを描いた映画。 そろそろ食傷気味かなと、選ぶ映画に慎重になっていたところだったんですが、この映画の着眼点は面白そうだったので、見に行くことにしました。 へえ、そんなことがあったんだと、興味深く映画に臨みました。 どこの国がつくった映画だったんだろう。 ドイツが舞台なのに、みんな英語を話していました。 この映画が、ドイツによってつくられたものであるならば、評価はまた違ったものになったかもしれない。 見る映画を、よく自分に置き換えて鑑賞することがあるのですが、この二人には到底なれそうもなかった。 失った息子の痛みは、あの国の状況下では、誰にも理解されない。 まさに『ALONE IN BERLIN』。 二人で闘い抜きました。 最期の夫婦のシーンだけで、お腹いっぱいになれました。 夫婦間の愛を、ああいう締めくくりで描いた映画を、私は知らない。 勿体無いくらい短い場面でしたが、ガッチリ引き込まれました。
上中層と下層の断絶を描く映画
序盤、映画の主題とは別に主人公と同アパートメントに住むユダヤ人老婆を巡るエピソードが展開され、紳士的な上中層インテリとひたすらに老婆を食い物にしようとする下層とが描かれ、戦間戦中期のドイツの荒廃ぶりがよく表現されています(台詞は英語だが)。ここで観客に下層に対する憎悪「このクズ死ねよ」を誘導しますが、その感情こそがナチの社会秩序を支えているという皮肉が素晴らしいです(台詞は英語だが)。
中盤から密かに犯行を重ねる主人公夫妻とそれを追う刑事とでサスペンスじみた二重主人公劇という映画の主題となりますが、両者のやり取りもなかなかに面白く展開します(台詞は英語だが)。しかしその攻防こそが両者が上中層に属する事に由来し下層の極北たるナチの「コレだからインテリは!貴様らは俺たちより優秀なつもりか!」という罵倒につながった点で、この映画がWW2の実話をベースにしながらも上中層と下層の断絶と、下層が支配する社会に対する絶望が裏主題である事が示されます(台詞は英語だが)。そしてほかならぬナチにより「クズを殺せ」という観客の願いが不本意に叶うに至り、最高になります(台詞は英語だが)。
終盤は主人公夫妻に同情する上中層が無力にも下層のナチに従属し憂鬱なお気持ちになって終了し、観客はナチ(下層)に対する怒りを募らせますが、その怒りこそが正に上中層が感じたお気持ちであり結局はナチを支持しているという転倒につながり、誠に最高です(台詞は英語だが)。
ベルリンに住まうドイツ人がナチ政府に対して嫌がらせスパムメールを送るという内容で、WW2ドイツ周辺でこれより酷い境遇の人々が更に酷い目に遭う映画などすでに山ほどあり悲劇的戦争映画の主題としては比較的小粒ですが、裏主題により中々に現代的な問題にもつながり誠に素晴らしい映画に思いました(台詞は英語だが)。
星の数ではなく
97本目。 足のつき方、また追う側が最後には共感したり。 ありがちな流れではあったけど、脚色があるとしても、実際あった事なら勇気ある行動だと思う。 俺は無理だな、口だけだから。 星は正直つけたくない。
重厚さと恐怖
少ない登場人物ながら、冒頭から恐怖政治と密告社会に引きずり込まれます。苦悩する者、従う者、権威に変貌するもの。上から下まで、もはや逃れることのできない我が身保身第一主義の狂気の世界の末期。
「ハンぺル事件」という第二次世界大戦中のベルリンで実際にあった事です。息子が戦死した夫婦がヒトラー批判のポストカードを書いて街中に一枚、一枚と2年以上にも渡って置きつづける。つかまればもちろん死刑は免れない。
なんと無力で無謀で危険な抵抗活動だろう・・・。
子どもへの贖罪、抵抗、心の自由?何が夫婦を突き動かしたのか、事実を推し量るのは難しいが、この夫婦を演じたのエマ・トンプソンとブレンダン・グリーソンによってジワリジワリと自分も突き動かされていくような感覚になる。
パンフレットを見ると原作者ハンス・ファラダ(ペンネーム)についても興味深い。
グリム童話からとったその名前の「ファラダ」は、首を切られても真実を語り続けた馬の名前だそうだ。不遇かつ苦悩の作家が戦後旧ゲシュタポの秘密文書を見て一気に書き上げ、その三ヵ月後には死去。
そして2010年に英訳本が出版され世界的にベストセラーに。そして映画化。で、こうして、ちっぽけで無力な私も観ているというわけだ。
当時、ある夫婦の無謀かつ無力な奇行としか思えないものが、数奇につながって世界中に知らしめられ、影響を及ぼしている。
なんと言うことだろう!彼らのポストカードはこれからも世界中の人に届き続けるのだ!!
この不思議さがこの物語の続きだし、希望ともいえるんじゃないかと思う。
ヒトラー政権の正義は、暴力だ
1940年ドイツ・ベルリン。 パリも陥落し、ベルリン市内は戦勝ムード一色。 そんななか、クヴァンゲル夫妻のもとに一通の報せが届く。 それは、出征した息子が戦死したというもの。 職工長として真面目に働く夫オットー(ブレンダン・グリーソン)、婦人会に参加して募金活動をしていた妻アンナ(エマ・トンプソン)であったが、現在の状況が本当にいいものかどうか悩み、失意の中、ささやかな抵抗運動を始めた。 それは、ヒトラー政権を批判する文章を葉書に書き、町の要所要所に置くというものだった・・・ というところから始まる物語で、その後、反政権活動をしているものは誰か、捕らえよとの命を受けて、ゲシュタポのエッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)が捜査に乗り出してくる。 そして、映画は、早く捕らえよとナチス親衛隊から責め立てられ、苦しい立場に追い込まれていくエッシャリヒ警部をも描いていく。 勢いに乗る政権へのささやかな抵抗。 権力側にいるものの、微妙な立場の者。 非常に興味のある題材であるが、どこかしらスパイスが効いていない。 たぶんそれは、当時の市民の情況を描くのが不足しているせいだと思う。 息子を亡くす前のオットーの立場。 ナチス党員ではないが、ヒトラー政権を指示していたはず。 ベルリンの町なかに置かれた285枚の葉書。 そのうち、警察に届けられなかったのは10数枚に過ぎず、多くの市民は政権に批判的な者を非難していたこと。 それらはセリフの中では語られるが、映像では示されない。 なので、木乃伊取りが木乃伊になり、最後の最後、「オットー・クヴァントが書いた葉書をすべて読んだのは俺だけだ」と叫ぶエッシャリヒ警部の言葉が心に響いてこなかった。 残念。 なお、葉書の文章のなかで最も印象に残ったのは「ヒトラー政権の正義は、暴力だ」というもの。 暴力が正義であるはずはない、正義の暴力なんてない。 そのことは心にとどめておきたい。
戦争の恐怖と恐怖政治と。
ドイツ国民でもヒトラー政治に納得できない市民が当然のごとくいたんだな~、と。今みたいにSNSで簡単に考えを口走れる時代ではなく、手書き、はがきでの意見拡散。ペンの力という通り一通仕上げるのに1時間半かかる文章には強い気持ちがこもるはず。つかまることを恐れずただただ反ヒトラーに邁進する老夫婦に涙。
正しいことをしたら、クビ
義が大儀に押し潰される時、私達にできることは、あるのでしょうか。 暑い日が続きます。入道雲と映画を見ながら、今からおよそ70年前、世界で何があったのか、考える季節ですね。 劇中、本作を象徴するアイテムが、繰り返し出てました。そう、お父さんの勤め先に積み上げられた、あれです。しかもナチの偉い人が、増産するように指示するあたり、危険な薫りが引き立ちます。あれ、何を収納するんですかね。ナチな少年の見果てぬ夢?、名を残すこともない人々の無念?、あるいは、自ら考えることを放棄した人間の未来かな?。 自分の知っていることを公表すると、知られたくもない自分のプライベートが、報道される今日この頃です。本作は、海の向こうの昔話では、片付けられない気がします。 人は、時と場所によって、正しさを使い分ける習性があるとしても、正しいことをしたらクビ(文字通り、クビです!)になる世界に戻りたくないものです。
良心は弱いのか
命を大事にしない政治は要らないって言うことに命をかけなければいけない。何たる不条理。 良心、理性を呼び起こすために書かれたカードを唯一全て読んだ検察官の良心は呼び起こされ・・・ こんな夫婦が二度と現れないで済む世の中を!
いまの日本だったら、共謀罪?
ナチス政権下のベルリンに住む平凡な労働者のオットー&エリーゼ・ハンペル夫婦が、反ナチスのポストカードを作って抵抗したという事実を下にした作品。 ハンペル夫妻(劇中ではクヴァンゲル夫妻)の静かな抵抗が始まったのは、1940年。ナチス・ドイツの転落が始まるソ連侵攻作戦のバルバロッサ作戦前で、まだまだ、ドイツの強力さが目立っていた頃と言うのが非常に興味を引きます。そもそもの発端が、一人息子の戦死と言う衝撃的な出来事ではありますが、それで一転、権勢を誇っていた時の権力者への繋がるとはね。なんか、そう言う所も凄い気がします。 第二次大戦時の日本でも、「お国のため」と言って出征し、そのまま戦死してしまった子供がいる家族が数えきれないほど居たわけですが、時の政府に対する反感は(ほとんど)心の中に秘め、公然と反旗を翻したという事は無いと思います。国民性の違いと言えば、そうなのかもしれませんが、それにしても極端な気がしますね。 だからと言って、ハンペル夫妻(劇中ではクヴァンゲル夫妻)のやった事に反対な訳ではありません。むしろ逆。当時は、残念ながら、広く国民の中に広がるような運動には成らなかった様ですが、試みとしてはアリだったと思います。現代なら、SNSで拡散するという事になるんですかね?当時は広がりを止められたかもしれませんが、現代は・・・無理かもね。 ラストシーンが印象的。エッシャリヒ警部も、この捜査を通じて、思うところがあったんですね。 ドイツを舞台にした作品にもかかわらず、全編セリフが英語なのは気になりました。小道具の、書類や、この作品のテーマである葉書はドイツ語で書かれていたんですけどね。
決意
第二次大戦下のベルリンで一人息子の戦死をきっかけに体制批判を訴えるメッセージを記したカードを街中に置いて廻る労働者階級夫婦の話。 体制批判による死刑を覚悟しつつ少なくとも発見して届け出る人間は読むはずだと一枚、又、一枚と街中にカードを置く主人公と捕まえ様と躍起になる警察。 その描写を淡々と繰り返すが、想いはひしひしと伝わってくる。 現代では時代錯誤な軍国主義と洗脳、それに反する市民の本心と苦悩が刺さり、決してハッピーエンドではないが終わり方も良かった。
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