「上中層と下層の断絶を描く映画」ヒトラーへの285枚の葉書 ShunActUさんの映画レビュー(感想・評価)
上中層と下層の断絶を描く映画
序盤、映画の主題とは別に主人公と同アパートメントに住むユダヤ人老婆を巡るエピソードが展開され、紳士的な上中層インテリとひたすらに老婆を食い物にしようとする下層とが描かれ、戦間戦中期のドイツの荒廃ぶりがよく表現されています(台詞は英語だが)。ここで観客に下層に対する憎悪「このクズ死ねよ」を誘導しますが、その感情こそがナチの社会秩序を支えているという皮肉が素晴らしいです(台詞は英語だが)。
中盤から密かに犯行を重ねる主人公夫妻とそれを追う刑事とでサスペンスじみた二重主人公劇という映画の主題となりますが、両者のやり取りもなかなかに面白く展開します(台詞は英語だが)。しかしその攻防こそが両者が上中層に属する事に由来し下層の極北たるナチの「コレだからインテリは!貴様らは俺たちより優秀なつもりか!」という罵倒につながった点で、この映画がWW2の実話をベースにしながらも上中層と下層の断絶と、下層が支配する社会に対する絶望が裏主題である事が示されます(台詞は英語だが)。そしてほかならぬナチにより「クズを殺せ」という観客の願いが不本意に叶うに至り、最高になります(台詞は英語だが)。
終盤は主人公夫妻に同情する上中層が無力にも下層のナチに従属し憂鬱なお気持ちになって終了し、観客はナチ(下層)に対する怒りを募らせますが、その怒りこそが正に上中層が感じたお気持ちであり結局はナチを支持しているという転倒につながり、誠に最高です(台詞は英語だが)。
ベルリンに住まうドイツ人がナチ政府に対して嫌がらせスパムメールを送るという内容で、WW2ドイツ周辺でこれより酷い境遇の人々が更に酷い目に遭う映画などすでに山ほどあり悲劇的戦争映画の主題としては比較的小粒ですが、裏主題により中々に現代的な問題にもつながり誠に素晴らしい映画に思いました(台詞は英語だが)。