「ヒトラー政権の正義は、暴力だ」ヒトラーへの285枚の葉書 りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ヒトラー政権の正義は、暴力だ
1940年ドイツ・ベルリン。
パリも陥落し、ベルリン市内は戦勝ムード一色。
そんななか、クヴァンゲル夫妻のもとに一通の報せが届く。
それは、出征した息子が戦死したというもの。
職工長として真面目に働く夫オットー(ブレンダン・グリーソン)、婦人会に参加して募金活動をしていた妻アンナ(エマ・トンプソン)であったが、現在の状況が本当にいいものかどうか悩み、失意の中、ささやかな抵抗運動を始めた。
それは、ヒトラー政権を批判する文章を葉書に書き、町の要所要所に置くというものだった・・・
というところから始まる物語で、その後、反政権活動をしているものは誰か、捕らえよとの命を受けて、ゲシュタポのエッシャリヒ警部(ダニエル・ブリュール)が捜査に乗り出してくる。
そして、映画は、早く捕らえよとナチス親衛隊から責め立てられ、苦しい立場に追い込まれていくエッシャリヒ警部をも描いていく。
勢いに乗る政権へのささやかな抵抗。
権力側にいるものの、微妙な立場の者。
非常に興味のある題材であるが、どこかしらスパイスが効いていない。
たぶんそれは、当時の市民の情況を描くのが不足しているせいだと思う。
息子を亡くす前のオットーの立場。
ナチス党員ではないが、ヒトラー政権を指示していたはず。
ベルリンの町なかに置かれた285枚の葉書。
そのうち、警察に届けられなかったのは10数枚に過ぎず、多くの市民は政権に批判的な者を非難していたこと。
それらはセリフの中では語られるが、映像では示されない。
なので、木乃伊取りが木乃伊になり、最後の最後、「オットー・クヴァントが書いた葉書をすべて読んだのは俺だけだ」と叫ぶエッシャリヒ警部の言葉が心に響いてこなかった。
残念。
なお、葉書の文章のなかで最も印象に残ったのは「ヒトラー政権の正義は、暴力だ」というもの。
暴力が正義であるはずはない、正義の暴力なんてない。
そのことは心にとどめておきたい。