「"いつもの定食"でいい。昭和レトロな国民的娯楽シリーズになってほしい」探偵はBARにいる3 Naguyさんの映画レビュー(感想・評価)
"いつもの定食"でいい。昭和レトロな国民的娯楽シリーズになってほしい
大ヒットした前2作(2011/2013)から4年のブランクを経たのは、主人公2人の忙しさ、あるいは須藤プロデューサーの異動や橋本監督の東映退社・独立の影響なのかも知れないが、何はともあれ、人気シリーズの最新作である。
続投する人気脚本家・古沢(こさわ)良太の魅力のひとつは、凸凹コンビ構造にある。「デート〜恋とはどんなものかしら〜」では杏と長谷川博己、公開中の「ミックス。」やドラマ「リーガルハイ」シリーズではそれぞれ新垣結衣と瑛太、また新垣と堺雅人の掛け合いの妙が楽しめる。
もちろん本作では"大泉洋×松田龍平"であり、3作目にして、原作小説「ススキノ探偵」シリーズ(東直己・著)に拠らないオリジナルストーリーを、古沢良太が書き下ろすことで、ボケツッコミに磨きがかかってきた。まさに大泉洋×松田龍平×古沢良太(脚本)による映画的な調和である。
併せて、第1・2作の橋本一監督に代わり、今回から、NHK連続テレビ小説「あまちゃん」(2013)の吉田照幸監督になったことで、次なるフェイズに向かうのかもしれない。アクションシーンがスローモーションと早回しを組み合わせた、ガイ·リッチー的なアプローチを試している。
そもそも本シリーズは、オールドファッションドな昭和レトロクラシックを意識している。
そのひとつは、東映が70~80年代に送り出したハードボイルドシリーズ。それは松田優作を主演とした"遊戯シリーズ"や"大藪春彦作品"(「野獣死すべし」、「甦る金狼」)などだが、むしろ同時期にテレビ放送された「探偵物語」のコミカルな松田優作を強くリスペクトしている。もちろん長男·松田龍平のキャスティングも意図されたもので、"まほろシリーズ"の"仰天春彦"的なハチャメチャさはないものの、期待に応える"血筋"を垣間見られる。
さらに、松田龍平演じる助手の高田が運転する、光岡自動車のコンパクトセダン "Viewt"(ビュート)も、レトロクラシカルである。これは光岡自動車のパイク・カー(改造車)の原点が、"ルパン三世"の愛車だったメルセデスベンツ·SSKのレプリカをモチーフにした、"ラ・セード"だったりするところから、ルパン三世と次元大介コンビの関係性をも想起させる。
また、日本映画に国民的娯楽シリーズというものが無くなって久しい。やはり正月には、「男はつらいよ」のような、"安寧な心の拠りどころ"が得られる人情喜劇があるのはいい。
"葛飾柴又"ならぬ、"札幌ススキノ"を舞台にして、お馴染みの地元民に囲まれて、毎回マドンナが入れ替わる。本作には「男はつらいよ」に似た魅力が詰まっている。
第1作目が小雪、第2作は尾野真千子、そして今回のマドンナは、北川景子と前田敦子である。松竹の「男はつらいよ」が、東映の"やくざ映画"のパロディとして始まったように、本作も昭和映画のパロディとして開き直っている。
そして何といっても、毎回楽しみなのは、主題歌だったりする。もちろんこれも"昭和レトロ"だ。1作目は、鈴木慶一とムーンライダーズの「スカンピン」(1977年)。そして第2作目は、ジャックスの「時計をとめて」(1968年)を、カルメン・マキがカバーした。このマニアっぷりは、何なんだ(笑)。
今回は、はちみつぱいの「大道芸人」で映画が始まり、エンドロールは「大寒町」(1974年ライブ版)で締めくくられる。
♪大寒町にロマンは沈む。星に乗って銀河を渡ろう。
かわいいあの娘と踊った場所は、いまじゃあ場末のビリヤード♪
・・・歌詞が心に滲みる。
いわゆる"3部作"は、掃いて捨てるほどある。何も仕掛けはいらない。"いつもの定食"で構わないので5作、10作と続いてほしいシリーズである。
(2017/12/1 /TOHOシネマズ日本橋/ビスタ)