「Cover one’s butt」三度目の殺人 いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)
Cover one’s butt
自己保身と自己犠牲、本作のテーマだと感じる。始めに断って置くが、今作品は決してスッキリとしたエンディングは用意されていない。それよりも、イメージとすればガリレオシリーズの『容疑者Xの献身』に近いかも知れない。まぁ、主人公が同じ福山雅治ということもあって似てしまうのかも・・・
そして、今作品に流れる本当と嘘の境目を完全に曖昧にしてしまっている点においては、犯人役である役所広司以外は全て煙に巻く、木で鼻を括るスタンスを貫いていく。アバンタイトルからして、ストーリー途中には、それを否定してしまうようなシーンもあったりするし、これは単なる法廷闘争劇ではなく、どちらかというと、スティーブン・キング原作的な内容に近いのではないだろうか。何か人に見えない不思議な力なのか、それとも稀代のペテン師、もしくはインチキ占いの類、もしかしたら神?悪魔?そんな劇中では『器』と呼ばれる男が、果たして自己犠牲において守りたいものがあるのか、それとも、自己保身に走る『司法』という舟に乗っている弁護士、検事、裁判官を断罪しに地上に遣わせたのか、そんな世界観を重く暗い映像で観客に問いかけるのである。ミステリーとすれば、少々イレギュラーなプロットではあるが、邦画の一つの可能性を指し示せたことにおいて、是枝監督の相変わらずの秀逸な出来映えに満足している。法律用語や、時系列、過去シーンでの登場人物の若返りの姿がないこと(役所広司は同じ顔つき)など、かなり観覧者のイマジネーションや知識を必要としなければならないところもあるので、着いていくのが厳しいと思うし、何と言っても時間が長く、自分のようなジジィだととにかく生理現象には勝てず、せっかくの面会室でのクライマックスで中座してしまう始末・・・
提案だが、逆にもっと上映時間を長くして、4時間位の途中休憩というプログラムではどうだろうか?もう少し、福山とその娘の間のストーリーや、食品偽装が法廷闘争に関わってくる内容とかも深く盛り込めると、観ている人のミスリードを最大限誘発できるとおもうのだが・・・
ラストシーンでの十字路の中央で立ちすくむ主人公、人を『裁く』という現実にどう立ち向かうか模索する象徴シーンでもある。
果たして、神か悪魔か・・・・