ガザの美容室のレビュー・感想・評価
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それでも、人生は続く。 ガザの美容室。そこは、女たちの“心の解放区”。
美しくありたいと願うのは、すべての女性に共通したテーマだ。
長く伸びた髪を整え、髪型を変えて気分転換し、ムダ毛の処理も済ませたい。自分では手の届かない髪や肌のムダ毛を整えてもらえる美容室には今日も女たちが集う。
つかの間の憩いのサロンには、結婚式を控えて母に伴われて来た娘や、愛人と合う前の準備に余念がないマダム、薬物中毒の饒舌女など、それぞれの今を抱える13人の女性が居合わせている。店を切り盛りするのは、中学生の娘を持つロシアからの移民で、アシスタントはマフィアの恋人との別れ話に一喜一憂し仕事が手に着かない有様だ。
男たちがいないその場所では、女たちの飾らない言葉が飛び交う。間近に迫った結婚式、クスリの問題、旦那の愚痴、ご近所界隈の噂話、いつしか周辺のイスラム社会の動向まで、会話はつきることがない。自分たちは客であるという暗黙の優越感意識も手伝って言いたい放題なのも小気味よい。美容室は女たちの“心の解放区”として機能しているのだ。
やがて会話は加速し、遂にはイスラエル封鎖をめぐるハマスやファタハを撃ち破るために、居合わせた女性たちによる新政府の組閣会議にまで行きつく。それもそのはず、美容室はパレスチナ自治区ガザにあるのだから。ガラス戸1枚で隔てられたその先には、銃声と罵声が飛び交い、爆音が鳴り響くもうひとつの日常がある。突然の停電も茶飯事、店の前には動物園から盗まれたライオンまで現れる。
『ガザの美容室』は、“心の解放区”に居合わせた女性たちのとある1日を描く。鏡を巧みに活かして、ワンシチュエーションの中で変容する様々な表情を掬い取っていく。兄弟監督は、街路に襲いかかる猛烈な爆発をダイナミックに録音することにこだわり、異常事態に包囲された“ガザの美容室”の日常を現出させる。
非日常が恒常化し、いつしか日常となってしまったガザで、それでも生きていく。心の解放区には、明日を信じる女性たちが今日も集う。すべてが解放される“その日”を待ちながら…。
考えもしないことが世の中にはたくさんある
―――私たちが思う「非日常」の中でも「日常」の営みは行われている
言われてみれば自明のことなのだけれど、考えもしなかったことが世の中にはたくさんある
そんなことをつい最近思ったのは、とある新聞記事を読んだときだった
【ガザ地区の動物園で動物の餓死が相次いでいる。ライオンなどの肉食動物には他の動物の死骸を与えたりしているが、それでも全く足りない】
そうだよな。どこにだって動物園はあるし、人間の食糧が足りていないのだから動物から犠牲になるよな
そんなことを考えた。偶然だが今作にもライオンが印象的に登場している
映画としてはとてもミニマムな作品だ
舞台はほとんどが美容室の中で、外の様子はドア一枚挟んだ道路が時々描かれるだけ
店内には美容師とアシスタントが一人ずつ。そして順番待ちの客。小さな店はそれで満員だ
彼女達は冒頭からずっと苛立っている。暑さや個々の都合もあるが、どうしようもできない毎日の連続がその空気感を作っていることは想像に難くない
そんな彼女達の会話が聞けるのはこの作品しかない
誰も仕上げてくれない
パレスチナ自治区ガザで生まれ育った双子のタルザン&アラブ・ナサール監督が、
日々戦闘が続くガザでの実体験を基にした作品。
2023年10月、ハマス掃討という名目でパレスチナ自治区、ガザが攻撃されている。
近いうちにイスラエルはパレスチナを完全に占領してしまう勢い。
ずっとそんな状況下に置かれた女性たちの日常を切り取った作品。
イスラム教ながら、それぞれの信仰の濃淡。
厳密なイスラム教信者が多そうなパレスチナ。
やはり、女性たちは男性の前では髪を隠してた。
それにしても、お客さんいても自分の恋愛に振り回されているアシスタント。
昼間から夜まで、(停電があったものの)一人のお客も仕上げに至っていない。
…どれだけ、チンタラ仕事してるんだか…
しかもそれぞれが言いたい事を言っているだけだったので、途中睡魔に襲われた。
できるなら、出産直前に最後に髪を切りたい妊婦さんだけは、終わらせてあげて~
と思い続けたんだけど。
結局誰も仕上げられませんでした。
面白いかと聞かれたら、
面白くはない。程度の差はあるがみんなビックリするくらい身勝手で感情移入しにくい女性ばかり。つまり、美容室の中にいるのはみんな普通の女性達。違うのは、そこがガザで店を一歩出たら銃撃が起こっている戦場で爆撃のせいで店が揺れているという点。
ロシアからの移民の女性が店主、店の前にライオンを連れて来た男と別れ話がもつれており仕事放棄して彼を心配している美容師アシスタント、彼女に待たされてイライラしている離婚協議中の女性、自分の結婚式の髪とメイクをしに来た27歳と叔母と喘息持ちの母、美容師は2人しかいないのにひたすら待っている口の悪い女性、彼女について来たこれまで髪を切ったことがないヒジャブの女性、1人で来ている女性、親子、出産目前の妊婦と妹。戦時中のため停電でエアコンがなく暑い(うちわもないので手で扇いでいる)のでイライラするのは当然だしむしろ忍耐強いのかもしれないが。そして外で爆撃がある中で取っ組み合いのケンカを始める。店主が「それじゃ男と同じじゃないの!」と2人を止めるが「キャー」と震えてるだけではないのだった。
室内劇で店内だけで話が進むが、外の戦況が極度に悪化し、ラストはアシスタントの男(ハマスに睨まれていた)とライオンが瀕死の状態でトラックの荷台に。
映画はそこで終わるが、この後、彼女たちはどう暮らしていくのか。
美容院で脱毛やメイクもしていたり、男性と会う時はサッとスカーフを頭に巻いたり、文化の違いも興味深い。
ライオン、脱毛、ハマス批判。
戦争が日常であるガザ地区。平和とはかけ離れているようだが、そんな中でも平常を保とうと女たちは美容院をサロン代わりにしていた。離婚の話、妊娠の話など他愛も無いように思えるが、一歩外に出たら男たちは銃を構えている。戦争は愚かな者が行うもの。女たちは現実を非難しながら会話に花を咲かせている。
イラン映画なら見慣れているけど、パレスチナ映画はまだ数本。女性の自由、人権を謳ったものが多いけど、ここまで女性だらけの作品は珍しい。言ってみれば、パレスチナ版「この世界の片隅に」といったところだろうか。ちょっと違うのは政治にも関心を持ち、軽く政権批判しているところ。「イスラエルはおまけ」と言ってみせるほど、真の意味での反戦かもしれません。ただし、戦争描写は音だけ・・・
原題のdegradeとは品位を落とす、自分の品位を下げるといったところなので、彼女たちの雑談そのものを表していたのだろうか。ヒジャブを被った信心深い女性と、店主のクリスティンが品位を保っていたけど・・・
カザの平和を願う方とイスラエルのリベラリストの方へ 頑張って下さい。
極限状態でのシチュエーションコメディ。何一つ解決されない所は良いが、問題点が多すぎて、登場人物のそれぞれのシチュエーションが理解できる前に、終わってしまうような気がする。着眼点が良いだけにもったいない。
女性の世界を描いたところだろうが、どこか出歯亀的な所があると思った。つまり、犠牲になる女性を描いたつもりだろうが、男目線になっていると言うことだ。監督は男のようである。
中東の人達独特の遠慮のないお喋りが笑いを誘う
失われる日常
レンタル屋にふらっと立ち寄って見つけた作品
美容室の中で繰り広げられる女性のたわいもない日常
夫との離婚を考えて弁護士を誘惑しようと企む
熟女や 彼のことで悩む女 結婚式を挙げる女
夫のことで悩む女や、臨月の女など
どこにでもある女性の日常が美容室で展開されていくが
その場所は中東のガザ地区で、いつ戦闘が起こるか
わからない場所に身を置いているのだ
突然停電したり、発電機を使おうとしてもガソリンがないなど
住んでいる場所が違うだけでこうも暮らしがつらく苦しいものなのか
観ていて彼女たちの胸中は想像を絶する
突然戦争が始まるのだが、それもいつものことなのだ
そのたびに、彼女たちは泣き、恐れおののくのだ
その時私も彼女らと共に泣いていた
昼間に男たちは手に銃をとり歩いていて
日本では信じられない光景に、
日本でボーっと暮らしている私には
衝撃だった
【パレスチナ自治区ガザの小さな美容院が舞台の戦争の愚かさを女性目線で描いた作品】
パレスチナの日常
パラダイス・ナウ、オマールの壁、なぜかパレスチナの映画は気になって結局観ていることが多い。
物語はガザにある美容室が舞台。店員と客の女性たちの会話がメインで外の描写は最小限にしか出てこない。
けしてわかりやすい・観やすい作品ではない。女性たちの会話ややりとりも、楽しいものばかりではなく、前半はちょっと退屈に感じることもあった。
そこにいる女性たちは人種も立場も宗教も年齢も様々。共通点は美容院に来ているということだけ。
だが、彼女たちの自然な会話を通して社会の問題、今のパレスチナの問題を伺い知ることができる。こんなにも生活の中に浸食している理不尽な暴力を彼女たちは停電や恋愛の話と同等に扱う。
耳をつんざく銃撃シーン。日常も、特別な幸せなイベントも蹂躙されてしまう、そんな恐怖も彼女たちの日常の一部なのだということを感じ、平和のありがたさを思うとともに、世界の平和を祈る。
混沌
戦地の女性の姿が垣間見れた。
今年見た映画『ラッカは静かに虐殺されている』では、一切女性の姿が出てこなかったので、戦地では女性は何をやっているんだろうって興味があって見ることにしました。
イライラする美容室。
壁を一枚隔てたところでは、こんな日常的な、ひどい言い方をしてしまえば、取るに足りないくだらないことが繰り広げられているのでしょうか。
というのが、見終わったあとの印象です。
しかし、この映画の真意はそうではないと気づきました。
例えば、この美容室にミサイルが当たってしまったとしたら?
彼女たちは、何か戦争に働きかけた人たちだったでしょうか。
いや、違います。
無抵抗で、たった今の今まで日常を生きていました。
戦争では、戦地では、そういう普通の生活が、あっという間に失われることがあるんですよ、そういうメッセージが込められているのかなと思いました。
悪夢の美容室
良い映画だ。マッチョな戦争映画ではなく、女たちの戦争映画であり、反戦映画である。日常が戦争であり、その中で生活し、制約だらけのおしゃれを楽しむ市井の女たち。例え生活の場が戦場であっても、結婚し、子供を産み、はたまた離婚調停中であり、DVもあり、ダメ男との腐れ縁もあり、それぞれの人物の背景が丁寧に描かれていて、興味深くて面白い。銃後の守りのはずの女性たちが否応無く巻き込まれるのが戦争である。戦争なんて何も良いことはない。戦争はこの地球上から永遠に失くすべき人類の最重要課題でもある。
オシャレが女達の抵抗
戦闘と平和、男と女・・・そう簡単には割り切れぬ
パレスチナのガザ地区にある小さな美容室。
店主はロシアからやって来た女性。
彼女が言うには、ロシアの物価高に辟易したのだ、とか。
従業員は、ほかに若い女性がひとり。
彼女の恋人は、反政府活動をしており、いままさに、美容室の前で監視活動を行っている。
客は、離婚調停中の中年女性( ヒアム・アッバス)、夕方に結婚式を挙げる花嫁。
そのふたりがカット台に座っている。
ほかに、待っているのは、詮索好きで不満を口にしている中年女性、それに連れ立ってやってきたヒジャブを被った信心深い主婦、花嫁の母に、花婿の母と妹・・・
何気ない普段の会話が飛び交っているが、そのうち、美容室の外では戦闘がはじまる・・・
といった物語で、舞台劇やワンシチュエーション・スリラーを思わせるような設定。
全体で84分という短い尺も、そういう類の作品に近い。
前半は、女性たちの他愛ない会話。
誰もが誰かに対して不平不満をしゃべるこの前半は、会話の端々に、パレスチナの現状が窺い知れるけれど、それほど面白くない。
が、後半、美容室の外で戦闘が起こってからは、スリラー的要素が加わり、面白くなる。
ヒジャブを被った信心深い女性が定時の祈りをしている最中に銃声が轟き、店内は停電になる。
従業員の娘の恋人は、やって来た警官に連行されてしまう・・・
命あっての物種。
そんな言葉が脳裏をかすめる。
そんな物騒なところへ、恋人とロシアからやって来た店主は、「慣れればここも満更ではない」という。
まだ、戦闘が激しくなる少し前、件の詮索好きの中年女性が「わたしが首相だったら・・・ あなたは〇〇大臣に・・・」とひとりひとりに役職を与えるあたりも興味深い。
たしかに、生活よりも闘うことを先行してしまう男たちよりは、女たちの方がいい国をつくるかもしれない。
けれでも、そんな彼女たちも、ちょっとしたことで掴み合いの喧嘩を起こしてしまう・・・
戦闘と平和、男と女・・・そう簡単には割り切れぬ、ということか。
エンディング間近になって、カメラが美容室の外へ出ると、そこは大混乱の世界。
世界は、いつでも大混乱。
こういう世の中が世界には、ごまんとある。
あらためて、そう思った次第です。
<追記>
ヒアム・アッバスはイスラエルの主要な女優で、米国の『ブレードランナー 2049』『扉をたたく人』にも出演していますね(後者は主演です)
内も外も大荒れ
予告やあらすじから、荒れる外に対し美容室の中は平和に振る舞う女性達の世界になっているような印象を受けていたけど、実際は内も外も大荒れの模様。
ワンシチュエーションのスリラーのような展開だった。
情緒不安定な若物に怒りっぽい人・妊婦や茶化し役など、それぞれのキャラもホラー映画にありそうな役柄で。
ガラッと大きく状況が変わるまでが長く正直退屈、でも個性の強すぎる登場人物たちの延々と続く会話の攻防戦が妙に笑えたりしてなかなか面白い。
噂話と下品な発言の多い女と、信仰心の強すぎる女の二人組みが結構好き。
特に信仰心女が空気を読まずに祈り始め、ひれ伏したり立ったりしてカメラのフレームインとアウトを繰り返すシーンはだいぶシュールでコミカルだった。
終盤はヒステリックな喧嘩と激しい銃声が重なってかなりスリリングで怖い。
従業員と喧嘩中の恋人が傷を負って流れ込み、その恋人を男たちが連れ去るところで映画は終わってしまう。
パレスチナの情勢に全く明るくないので困惑のラストだった。
ただ、日常のすぐ側に戦争があり、いつ何処で身近な人や自分が巻き込まれ狙われるのかわからない状態の恐ろしさは伝わってきた。
下品発言女の背中にキズがあったくだりでは、初めて弱みを見せる彼女と、普段は適当にあしらいつつも何だかんだ彼女を抱きしめてあげる信仰心女の姿に胸が掴まれた。
ほぼ全編、美容室内での会話劇なので演劇にしても面白そう。
とある日の出来事。
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