「下手な神父の説法より説得力がある」アメイジング・ジャーニー 神の小屋より REXさんの映画レビュー(感想・評価)
下手な神父の説法より説得力がある
「悲しみから最上のものを引き出す」
観たのがだいぶ前だったので正確ではないと思いますが、この言葉になるほどと思った。
ほとんどの無神論者や宗教に無頓着な人間にとっては、概ね悲劇に直面した信徒や民衆に対して神父が言う常套句「信じれば救われる」「これは神の試練」などの説教には到底納得できるものではないだろう。
私も過去宗教史を専攻したことがあるが、「本当に神がいるなら悲劇は起きないし、救ってくれるはず」ぐらいに思ってました。
でもこの物語の神は言います。そうではなく、人間が選んだことや起きたことは人間の責任だと。ただ、神は苦しんでいる感情を乗り越えるための手助けをしてくれると。苦しみを乗り越えたときの強さや悟りがその人から湧き出る最上のもの、なんだと。
ま、要するに負の感情は自分自身を苦しめるだけで、一番救われたいのに一番自分を傷つけてるのは自分自身なんですよね。
そもそも本当に神がいたとしても、1人1人に起きた苦しみを取り除いていたらきりがないし、それなら最初から憎しみ合う感情を無くせばいい、という話になる。人間そのものを作らなければよかった、ということにもなってしまう。
マックは娘を救えなかった自分自身を責め続け、妹の死を招いた罪悪感に苛まれている姉は、父の姿をみて自分が責められている気持ちに陥る。
その辛さから父を拒絶し遠ざける結果になる。この二人は似ているんですよね。責任感があるから苦しむ。
対照的に母と兄も似ていて、この二人は過去より現在に向き合って生きている。
聖書は過去一通り読んだことがあるが、この物語の教えの方がストンと腑に落ちるものがある。だからといって神を信じるわけではないが、キリスト教の教えを哲学的に捉えることはできた。
肝っ玉母さん風のオクタヴィア・スペンサーは既存の神像に囚われない存在感、人間1人1人が己の正義をふるったら混沌しかないと諭す、聖霊役のすみれは台詞少な目でもどこか神秘的でよかった。