「才女ゆえに・・」ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
才女ゆえに・・
近代建築の世界的巨匠ル・コルビュジエがその才能に嫉妬した天才インテリア・デザイナー、アイリーン・グレイの私生活の側面を映画化。アイリーンの凄さが映画では取り巻きがセリフで賞賛するばかりで実感が湧かない、本作と並行してアリー・マクガキアン監督がドキュメント「アイリーン・グレイ孤高のデザイナー」を作っているので併せて観ると納得がいくかもしれません。
映画の冒頭のオークションは2009年にクリスティで起きた実話である、アイリーン・グレイが1922年に作った椅子(Dragon chair)が1950万ユーロの値をつけた、落札したチェスカ・ヴァロワが値段の感想を聞かれ「欲望の代償ね」と答えた、原題のThe Price of Desireの由来である。
アイリーン・グレイはアイルランドの貴族の出身でパリ万博で日本の漆工芸に魅せられて家具作家への道へ進んだという変わり種、旺盛な研究心の赴くまま木材から金属、セルロイド、織物まであらゆる素材を活かし機能性と美学に優れた家具を生み出すと同時に建築でも景観と建物、インテリアまで融合させた独自の空間デザイン能力に長けた天才であった。
そんな彼女がお気に入りの南仏カップ・マルタンの海辺に恋人のジャン・バドヴィッチと過ごすための別荘(E1027)を建てたのだがジャンの女癖の悪さに愛想を尽かし2年で去ってしまう。
アイリーンに建築を勧めたのはジャン・バドヴィッチで建築製図を教え込んだのはジャンの友人のル・コルビュジエだったらしい。E1027の完成度があまりにも高く、師の立場だったジャンやル・コルビュジエの自尊心が余程傷ついたのだろう、アイリーンの功績を汚すような情けない行為に走るのだった。ル・コルビュジエ役のバンサン・ペレーズがわざわざカメラ目線で愚痴を言う演出はメアリー・マクガキアン監督の「一緒に不甲斐ない男たちを蔑みましょう」との観客へのメッセージなのだろう。晩年まで正当な評価に恵まれず、才女ゆえの数奇な運命をたどったアイリーン・グレイへのアリー・マクガキアン監督のファンレターのような映画でした。