劇場公開日 2017年9月23日

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「もう少しなんとかならないものか」チェイサー うそつきカモメさんの映画レビュー(感想・評価)

2.5もう少しなんとかならないものか

2022年10月27日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

シンプルな追跡劇で、ほとんどがハル・ベリーの一人芝居。子供を誘拐された母親の必死の追跡は、実を結ぶのか?という展開は、誰もが共感できる愛情を描いており、どちらかと言えば現実離れした役が多かったハリーの今後の活躍を占う意味でも大きかった。

しかし、予告編を見た段階である程度の内容は分かっているので、開始10分のもたもたした展開は無駄に長い。彼女の日常を描いているのだが、親権を争う裁判中で、お金もなく(シッターが雇えない)、子供がすべて。ウェイトレスに身をやつし、子育てに奮闘中という、ややステレオタイプな若い母親を演じている。このことだけを説明するにしては、時間を使いすぎたし、子供とのリレーションシップもうまく描けていない。

姿の見えない敵の存在が非常に不気味で、つねに手の届きそうな距離で追いかけっこをするという展開が斬新だったが、前半は車相手にひとり言をつぶやき続けるハリーの芝居が説明的すぎる。この手のドラマに、無い方が都合がいい携帯電話を、一瞬で紛失し、彼女に残されたのは、車一台と、自らの頭脳だけ。本当なら、見応えたっぷりの心理戦になるはずだし、オスカー女優の面目躍如となる、長回しでも耐えられるスキルを存分に発揮してほしかった。

ほとんど彼女のクローズアップと、車の攻防の繰り返しで、話が拡がらない。てっきり、係争中の夫が後半に何らかの形で絡んでくると思っていたのだが、それもなかった。彼女が誰も頼る人がいないから、こんな孤独な追跡劇になったのだが、他に描き方があったはずだ。

走り続ける車でのアクションと、いきなり来る一瞬の静寂。このコントラストを狙った大胆な演出も残念ながら効果的とは言えなかった。思えば初めて犯人が姿を現すシーンから、敵との交渉、無計画さの露呈具合から、観客はみんな「轢いちまえ」とか、「乗せるな」とか叫びたくなるはずだが、あくまでもガスが尽きるまで車で追いかけ続ける。

それにしては、いらない展開が多すぎるし、例えばカメラが斜めに傾く演出や、ひたすらセンターラインを映し続ける構図、屋敷での主人公のアップ(いかにもどこかから何か飛び出してくる)以外何も映さない構図も、新味に欠け、時間稼ぎにしか見えない。

とても残念な出来上がりになったのである。プロットと、主演女優の力は素晴らしかっただけに、他でもう少しがんばってほしかった。

2018.9.12

うそつきカモメ