「ホラーとしては一流、物語としては二流。」ジェーン・ドウの解剖 茂野翔さんの映画レビュー(感想・評価)
ホラーとしては一流、物語としては二流。
◎ あらすじ
主人公は検視官の親子。ある日、彼らのもとに身元不明の女性遺体が運ばれてくる。外傷がない彼女の死因を特定するために、解剖に当たると、奇妙なものを発見する。解剖を進めると怪奇現象が発生する、得体の知れない彼女の正体とは・・・?
◎ 総評
米国・英国で「身元不明の遺体(女)」に形式上つけられる名前が、ジェーン・ドゥ(Jane Doe)である。派生系は色々とあるが、最も有名なのは、男性を指すJohn Doeだろう。*日本語でいうところの「名無しの権兵衛」
色々と書いたが、要するに、身元不明の遺体が鍵を握る作品になっている。
夜中に見たせいかも知れないが、かなり怖かった。
演出が上手いのもそうだが、とにかくジェーン・ドゥが不気味で、シンプルに怖い。
ホラーはこれまでかなり見てきたが、トップクラスにゾクゾクした。
ただ、物語としては、あまり出来が良くない。
表面的というか、とにかく怖いものを作ろうという意思を感じた。
設定の作り込みが甘い。例えば、突然流れるラジオの内容は、明らかに彼女の扱いを説いている。(ex. しかめっ面だと悪魔が喜ぶ/心を開いてetc...)
しかし、作中で登場人物がそれに触れることはなく、怪奇現象の一部として消費されており、勿体無い。もしも、ホラー要素の一つとしてラジオの音声を使っているのなら、希望をもてるような内容ではなく、もっと直接的な呪詛を吐くべきだ。不気味さに欠けるかも知れないが、現在の内容では一貫性がないと感じた。
また、彼女の胃で発見された残留物からヒントを得て、聖書の「魔女」に関する記述が取り上げられるシーンが存在するが、それを基に何かしら抵抗を見せてほしかった。最終的に父親が息子の安全を懇願して、彼女に生気を吸わせて死に至るが、定年ジジイだからか、諦念に達するのが早すぎる。過去に彼女を倒そうと、北部の人間が様々な方策を試みたようなセリフが出てくるので、結局のところ「魔女は倒せない」ことを強調しているのかも知れないが、ほんの少し前まで遺体にガソリンをかけて放火までするくらい倒す気満々なのに、聖書でヒントを得た途端に弱腰になるのは、やはり一貫性に欠ける。もちろん、ジジイが身体に損傷を負っていたのも知っているが、なぜ一縷の望みを人間を恨んでいるであろう魔女に託すのか、意味不明である。
もっと核心に迫ることを言えば、「魔女を死なないのは、何らかの動力源があるからだ」と息子が考えているシーンがある。このセリフの後、魔女はポルターガイストによって、親子を攻撃しているため、(それまで解剖を進めた時と同様に)魔女が自身の身体を調べられることを避けたいと考えているように見える。逆説的に言えば、動力源が存在する可能性が高い。しかし、本作では何の進展もない。これは、一体どういう了見か?
次作に繋げるための伏線として、必要のない要素を入れているのか知らないが、本作だけでは、「ただの恐怖映像」であり、まともな「物語」ではない。次回作を座して待つ。
期待を込めて、評価は4にしてあるが、ない場合は3.5に下がる。