「ふたりの距離感の変化を堪能しました」しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
ふたりの距離感の変化を堪能しました
『シェイプ・オブ・ウォーター』で注目のサリー・ホーキンス主演。出演順序ではこちらの方が先ですが、日本での公開順序は前後しました。
20世紀前半のカナダの、港に近い田舎町。
幼い頃からリウマチを患い、手足が不自由なモード(サリー・ホーキンス)。
両親が他界し、住んでいた家も兄に売り払われ、彼女は叔母アイダのもとに引き取られることになった。
が、そこでも厄介者扱いで、自立したいと思っていたところ、町の食料品兼雑貨屋に訪ねてきた男性が家政婦を求めているのに出くわし、男のもとへ押しかけることにした。
男の名前はエベレット・ルイス(イーサン・ホーク)。
漁師であり獲った魚を売り歩き、そのほか、育った孤児院の雑用などをして生計を立てている。
自尊心・自立心の強いふたりは当初、反りが合わないかと思われたが・・・
といったところから始まる物語で、ひとことでいえば、夫婦の物語。
これまで何度も観てきたような物語。
なので、物語の目新しさを愉しむ映画ではありません。
見どころは、モードとエベレットの距離がどのように埋まっていくか。
会話(脚本)や仕草(演技)だけでなく、画面でふたりの距離感をどのように伝えるか・・・
この映画では、そこが抜群に上手い。
これぞ演出、というもの。
例えば、モードがはじめてエベレットを知るシーン。
店内の品物を手に取ってみているモードの背後、店の入り口から男がやって来る。
店主に家政婦を求めている旨を告げるのだが、男と店主のやり取りから、男が粗野だということがわかる。
モードは、それに対して聞き耳を立てている。
これを、ワンカットで撮り、モードに焦点を合わせ、男の姿はぼやけたまま。
これで、ふたりの間に繋がりはできても、まだまだ距離があることがわかる。
男が貼った求人メモは、長身の男の眼の高さで、モードにとっては遥か上。
背伸びして、飛びついてメモをひったくるさまが笑いを誘う。
もうひとつ、何度も映される入り江の道。
はじめは、エベレットが魚運搬用の手押し車を押し、モードがその後ろを遅れまいとして必死ついてゆく。
その後、距離が縮まると、ふたりは並び、そして、手押し車にモードを乗せ・・・といった具合。
本当にうまい演出。
モードのカードに描いた画をニューヨークから来たサンドラ(カリ・マチェット)に認められるシーンもうまい。
ここは、それまで厄介者だったモードが、一人前として認められるシーン。
歓びを隠せないモードであるが、売り込んだエベレットを称えることを忘れない。
後半は、モードの成功と引き換えに、モードとエベレットの主客が逆転し、モードが家を飛び出すという一幕がある。
ひとつ寝床で一緒に寝ていたふたりだが、そのときは隣は空っぽ。
中盤、ふたりがベッドで寄り添って眠るシーンを撮っていたいたことが、このシーンを撮るためだったということがわかる。
だから、空っぽの寝床が身に堪える・・・
演技陣としては、サリー・ホーキンスは抜群にうまいが、少々やりすぎなところがなくもない。
対して、イーサン・ホークはこれがベスト演技と思えるほどで、粗野だが優しい男を好演している。
いつも、眉間にしわを寄せているだけではなかったのね。
エンドクレジットに実際のふたりの映像も流れるが、それもくどくならないぐらいの長さ。
実話の、押しつけがましさも感じません。
ということで、かなりの秀作。